「そう……なんでない? っていうか待って。『彼の部屋に行く』って言ったの、アンタ?」

「うん、言った」

「待って待って。となるとさ、彼の言ってた意味合い変わってくるよ」

 里歩はポテトをつまみ、うーんと唸ってからそう言った。

「え、そうなの?」

「うん。それが恋愛における次の段階って意味だったら……。キスの次、ってことになるよ」

「それって……、()()()()()()?」

 わたしだって小さな子供じゃないので、それがどういう行為を表しているのかくらいはちゃんと分かっていた。ただ、口に出すのは少々憚られるけれど。

「あれでしょ。女性は恋愛に心の安定を求めるけど、男性はそれ以上のものを求めてるっていう、男女間における恋愛観の違いみたいな」

「そうそう、それ。……アンタさぁ、まだ付き合い始めて二ヶ月くらいでしょ? いきなり彼の部屋に行くとか無防備すぎ。まぁ、桐島さんなら大丈夫だろうけど」

「大丈夫、って何が?」

「小坂リョウジみたいに女にだらしなかったら危ないけど、彼はちゃんと節操あるし。何より絢乃のこと大事にしてくれてるみたいだからさ。そのネックレス、桐島さんからもらったんでしょ? アンタ愛されてるじゃん♪」

「…………うん。愛されてるし、わたしも彼のこと愛してるから」

 わたしは照れながら里歩にそう答えて、ダブルチーズバーガーにかぶりついた。ちなみに里歩が食べていたのはえびフィレオバーガーだ。

「あらあら、ごちそうさま♪ ってことは、もしかしたら二人の関係で次のステップに進みたい、ってことかもね」

「……っていうと?」

「結婚も視野に入れて、ってことかなぁ」

「結婚か……。そういえば貢、初めて会った時からそんなこと言ってたなぁ」

 思えばそこから(さかのぼ)ること約半年前、彼は自分もわたしのお婿さん候補の一人に……というようなことを言っていた。あれはやっぱり冗談なんかじゃなく、本気だったのだ。もちろん逆玉狙いでもない。断じて。

「っていってもまだ実感湧かないよね。あたしたちまだ高校生だし、絢乃はお父さん亡くしてまだ三ヶ月くらいだし」

「うん。パパの納骨はもう済ませたけどね、どっちみち喪が明けるまでは無理だもん。……でも、彼がウチの家族になってくれたらいいなぁとは思ってる。すぐにじゃなくてもいいから」

「そうだね。あたしも桐島さんだったら安心してアンタのこと任せられるよ。むしろ不安要素が一コも見当たらないわ」

「うん、ホントにね。あんなにいい人、他にはなかなかいないと思う」

 だから、わたしはこっそり思っていた。もし万が一彼と()()()()()()になったとしても、絶対に後悔しないだろうな、と。