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――記者会見にはわたしだけでなく、篠沢商事の実質的トップである村上社長も一緒に臨んで下さったので、すごく心強かった。ちなみに司会進行は久保さんで、それもまた頼もしかった。
質疑応答の内容は全部を憶えているわけじゃないけれど、島谷さんへの処遇についてはかなり厳しい質問を受けたと記憶している。解雇処分ではなく退職扱いにしたのは甘かったのではないか、と。
わたしはその質問に対しても、自分の考えを真摯に述べた。この処分は彼の再起と、彼のご家族への配慮を念頭に置いて決定したものである、と。
罪を憎んで人を憎まず、それが父の信条でもあったから――。
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「――村上さん、会見お疲れさまでした。一緒にいて下さって心強かったです」
会見場である大会議室から重役フロアーに戻る時、わたしは一緒になった村上さんにお礼を言った。わたしが返答に困っていた時、彼はさりげなく助け船を出して下さっていたのだ。
「お疲れでした、会長。桐島君は?」
「会長室で待ってくれています。彼もきっと、会見をネット配信で観てくれていたはずです。この会見は彼のために行ったようなものですから」
「やっぱりそうだったんですね。……いえ、これは失礼。では」
「…………? はい」
村上さんと別れてから、わたしは首を傾げた。――「やっぱり」ってどういうこと?
会長室へ戻ると、応接スペースのテーブルの上にコーヒーの入ったマグカップを用意して彼が待っていた。
「――ただいま、桐島さん」
「会長、おかえりなさい。会見の様子、僕もPCで拝見しておりました。僕のために世間の矢面に立って下さってありがとうございました」
「そんな……、やめてよ。わたしはただ、自分にできることをやっただけなんだから。そんなにかしこまることないよ」
深々と頭を下げて感謝の意を述べた彼に、わたしは苦笑いした。
「ですが、あんなに厳しく詰め寄られて大変だったでしょう」
彼はそう言うとわたしの隣に腰を下ろし、優しく頭をポンポンとなでてくれた。
「よく頑張りましたね、会長」
「……うん。ありがと」
彼の大きな手は、いつもわたしを安心させてくれる。この時もそうだった。わたしはいつもこの手で守られているんだと思うと、愛おしさが増してきた。
「――それはそうとですね、会長」
「うん? なに?」
「僕と会長の関係、もう周りにバレてるみたいですよ」
「…………ええええっ!?」
彼がボソッとした暴露に、わたしは思わずのけぞった。村上さんがおっしゃっていた「やっぱり」って、まさかまさか……!?