「――どうしてCMの話、お断りしたんですか?」
〈Sコスメティックス〉の二人が帰っていった後、応接スペースで冷めたお茶を飲んでいたわたしに、向かい側に腰を下ろした貢が驚いたように訊ねた。
「会長、あちらの商品の大ファンでしたよね? またとないチャンスだったんじゃないですか? もったいない」
「だって……、キスシーンがあるっていうんだもん。小坂リョウジさんって、ドラマでもCMでもホントに相手にキスするって有名なんだよ」
「だからといって、そんな無碍に断るなんて……」
眉をハの字にして困っていたわたしの弁解に、彼は「そんなの会長らしくないです」と言った。
「わたしね、ファーストキスは絶対、好きな人としたいの。だから断ったの」
「好きな人と……って、えっ? ファーストキスなんですか」
「うん」
わたしは彼の顔をじっと見つめ、「貴方のことだよ」と目だけでメッセージを送ってみた。
「……そうでしたか。それならお断りしたのも仕方ないというか、納得できますね。ですが、会長の好きな人か……」
ところが、彼はうろたえるだけでそれが自分のことだと分かっているのかいないのか、わたしにはどちらとも判断できなかった。
「…………何ですか? 僕の顔に何かついてます?」
「えっ? ううん、何でもない!」
知り合ってからそろそろ四ヶ月が経とうとしていて、傍から見ればドライブデートみたいなことまでしているというのに。わたしの気持ちに気づいていないようなのはどういうことなのか。そこまで自分に想われている自信がないのか、それともただ単に鈍感なだけなのか? 「初恋って厄介だなぁ」と、わたしはこっそりため息をついたのだった。
〈Sコスメティックス〉の二人が帰っていった後、応接スペースで冷めたお茶を飲んでいたわたしに、向かい側に腰を下ろした貢が驚いたように訊ねた。
「会長、あちらの商品の大ファンでしたよね? またとないチャンスだったんじゃないですか? もったいない」
「だって……、キスシーンがあるっていうんだもん。小坂リョウジさんって、ドラマでもCMでもホントに相手にキスするって有名なんだよ」
「だからといって、そんな無碍に断るなんて……」
眉をハの字にして困っていたわたしの弁解に、彼は「そんなの会長らしくないです」と言った。
「わたしね、ファーストキスは絶対、好きな人としたいの。だから断ったの」
「好きな人と……って、えっ? ファーストキスなんですか」
「うん」
わたしは彼の顔をじっと見つめ、「貴方のことだよ」と目だけでメッセージを送ってみた。
「……そうでしたか。それならお断りしたのも仕方ないというか、納得できますね。ですが、会長の好きな人か……」
ところが、彼はうろたえるだけでそれが自分のことだと分かっているのかいないのか、わたしにはどちらとも判断できなかった。
「…………何ですか? 僕の顔に何かついてます?」
「えっ? ううん、何でもない!」
知り合ってからそろそろ四ヶ月が経とうとしていて、傍から見ればドライブデートみたいなことまでしているというのに。わたしの気持ちに気づいていないようなのはどういうことなのか。そこまで自分に想われている自信がないのか、それともただ単に鈍感なだけなのか? 「初恋って厄介だなぁ」と、わたしはこっそりため息をついたのだった。