――篠沢商事の丸ノ内本社ビルは地上三十四階、地下二階の三十六階建ての超高層ビルだ。
地下駐車場でクルマを降りたわたしたち三人は、地下一階の出入り口にある入構ゲートを抜けるとエレベーターに乗り込み、記者会見の会場となる二階の大ホールへ向かった。IDカードはエレベーターの中で首から提げた。
「――今日の会見で司会を担当するのは、総務課の久保という男です。憶えていらっしゃいますか? お父さまの社葬の時にも司会進行を務めていたんですが」
「……ああ、何となく憶えてるかも。ちょっと軽い感じの人だよね、確か」
久保さんという男性のことが記憶に残っていたのは、彼の持つ雰囲気がお葬式という場から少し浮いているように感じていたからだった。それは〝場違い〟という意味ではなくて、見た目が何となくチャラチャラしているように見えたからなのだけれど。
「……う~ん、確かにアイツはちょっとチャラチャラしてますよね。特に妙齢の女性に対しての態度が」
貢のコメントもなかなか辛辣だった。あの日が初対面だったわたしでさえそう感じたのだから、同僚として総務で一緒に仕事をしていた貢はわたしより久保さんのことをよく知っているはずなので、実感がこもっていた。
「っていうか、司会って広報の人がやるんじゃないんだね」
「確かに、そこは僕も不思議なんですよね。もしかしたら元々は広報の仕事だったのに、総務課長が手柄を横取りしたのかもしれません。あの人ならやりかねない」
最後に彼は苦々しく吐き捨てた。わたしはその総務課長さんの人となりを彼の話でしか知れなかったけど、きっとものすごく自分勝手で横暴な人なんだろうなと想像がついた。
「まぁ、久保本人に訊いてみないと何とも言えませんけどね。アイツは目立ちたがりなんで、もしかしたら自分から『やりたい』と名乗りを上げたかもしれませんし」
「…………うん、なるほど」
わたしは貢ほど久保さんのことを知っているわけではないので、曖昧に頷いておいた。
そうこうしているうちにエレベーターは二階に到着し、わたしたちはホール正面のドアではなく側面のドアから入った。
「――絢乃会長、加奈子さん。コートとバッグは僕がお預かりしておきます。そして、こちらが会見のスピーチ原稿です」
「ありがとう。……うん、この内容で大丈夫」
「よかった」
地下駐車場でクルマを降りたわたしたち三人は、地下一階の出入り口にある入構ゲートを抜けるとエレベーターに乗り込み、記者会見の会場となる二階の大ホールへ向かった。IDカードはエレベーターの中で首から提げた。
「――今日の会見で司会を担当するのは、総務課の久保という男です。憶えていらっしゃいますか? お父さまの社葬の時にも司会進行を務めていたんですが」
「……ああ、何となく憶えてるかも。ちょっと軽い感じの人だよね、確か」
久保さんという男性のことが記憶に残っていたのは、彼の持つ雰囲気がお葬式という場から少し浮いているように感じていたからだった。それは〝場違い〟という意味ではなくて、見た目が何となくチャラチャラしているように見えたからなのだけれど。
「……う~ん、確かにアイツはちょっとチャラチャラしてますよね。特に妙齢の女性に対しての態度が」
貢のコメントもなかなか辛辣だった。あの日が初対面だったわたしでさえそう感じたのだから、同僚として総務で一緒に仕事をしていた貢はわたしより久保さんのことをよく知っているはずなので、実感がこもっていた。
「っていうか、司会って広報の人がやるんじゃないんだね」
「確かに、そこは僕も不思議なんですよね。もしかしたら元々は広報の仕事だったのに、総務課長が手柄を横取りしたのかもしれません。あの人ならやりかねない」
最後に彼は苦々しく吐き捨てた。わたしはその総務課長さんの人となりを彼の話でしか知れなかったけど、きっとものすごく自分勝手で横暴な人なんだろうなと想像がついた。
「まぁ、久保本人に訊いてみないと何とも言えませんけどね。アイツは目立ちたがりなんで、もしかしたら自分から『やりたい』と名乗りを上げたかもしれませんし」
「…………うん、なるほど」
わたしは貢ほど久保さんのことを知っているわけではないので、曖昧に頷いておいた。
そうこうしているうちにエレベーターは二階に到着し、わたしたちはホール正面のドアではなく側面のドアから入った。
「――絢乃会長、加奈子さん。コートとバッグは僕がお預かりしておきます。そして、こちらが会見のスピーチ原稿です」
「ありがとう。……うん、この内容で大丈夫」
「よかった」