「じゃあママ、行こっか」
「ええ。――史子さん、行ってきます」
史子さんに「行ってらっしゃいませ」と笑顔で見送られながら、わたしたち親子は出陣したのだった。
「――絢乃会長、加奈子さん。おはようございます」
「おはよう、桐島さん。……あ、そのスーツ……」
カーポートで待ってくれていた貢に挨拶を返したわたしは、彼が真新しいネイビーのスーツに身を包んでいることに気がついた。
「ああ、これですか。絢乃さんがプレゼントして下さったネクタイに合わせて新調したんですよ。どうです、似合いますか?」
彼は嬉しそうに、ストライプ柄の赤いネクタイに手をやった。
「……うん、すごくカッコいいよ。でも、このためにわざわざ新しいスーツまで買うとは思ってなかったから、ちょっとビックリしちゃって。それ高かったんじゃない?」
「いえ、量産品なのでそんなにかかりませんでしたよ。ですからご心配なく」
「それならいいんだけど。桐島くん、その時の領収書かレシートがあったら、その分絢乃に清算してもらえるわよ」
「えっ、そうなんですか?」
突如会話に割って入った母のアドバイスに、彼は目を丸くした。そして、わたし自身も、そんな仕組みがあったと知ったのはその前日のことだった。
「そうらしいよ。わたしも昨日まで知らなかったんだけど。あと送迎にかかったガソリン代も、レシートがあったらちゃんと清算するから」
「しかも経理部を通さずに、絢乃個人がね。これ、会長秘書だけの特権なのよ。衣服代とか交通費は会長から直接清算されるシステムなの。夫が始めたことなのよ」
「へぇ……、それは助かります。会長秘書って仕事量も多そうですけど、それに見合ったメリットもあるわけですね」
彼はこの時ほど、「会長秘書になってよかった」と思ったことはなかっただろう。激務に追われる分月給も他の部署より高く、好待遇なのだから。そうでなければ、好きこのんで選ぶ職種ではないと思う。貢はどうだか知らないけれど。
「そう。だからこれから一緒に頑張ろうね!」
「はいっ! では、車内へどうぞ。ここでは寒いですから」
後部座席のドアを開けてくれた彼にお礼を言い、わたしたち親子は暖房の効いた車内のシートに腰を下ろしたのだった。
「ええ。――史子さん、行ってきます」
史子さんに「行ってらっしゃいませ」と笑顔で見送られながら、わたしたち親子は出陣したのだった。
「――絢乃会長、加奈子さん。おはようございます」
「おはよう、桐島さん。……あ、そのスーツ……」
カーポートで待ってくれていた貢に挨拶を返したわたしは、彼が真新しいネイビーのスーツに身を包んでいることに気がついた。
「ああ、これですか。絢乃さんがプレゼントして下さったネクタイに合わせて新調したんですよ。どうです、似合いますか?」
彼は嬉しそうに、ストライプ柄の赤いネクタイに手をやった。
「……うん、すごくカッコいいよ。でも、このためにわざわざ新しいスーツまで買うとは思ってなかったから、ちょっとビックリしちゃって。それ高かったんじゃない?」
「いえ、量産品なのでそんなにかかりませんでしたよ。ですからご心配なく」
「それならいいんだけど。桐島くん、その時の領収書かレシートがあったら、その分絢乃に清算してもらえるわよ」
「えっ、そうなんですか?」
突如会話に割って入った母のアドバイスに、彼は目を丸くした。そして、わたし自身も、そんな仕組みがあったと知ったのはその前日のことだった。
「そうらしいよ。わたしも昨日まで知らなかったんだけど。あと送迎にかかったガソリン代も、レシートがあったらちゃんと清算するから」
「しかも経理部を通さずに、絢乃個人がね。これ、会長秘書だけの特権なのよ。衣服代とか交通費は会長から直接清算されるシステムなの。夫が始めたことなのよ」
「へぇ……、それは助かります。会長秘書って仕事量も多そうですけど、それに見合ったメリットもあるわけですね」
彼はこの時ほど、「会長秘書になってよかった」と思ったことはなかっただろう。激務に追われる分月給も他の部署より高く、好待遇なのだから。そうでなければ、好きこのんで選ぶ職種ではないと思う。貢はどうだか知らないけれど。
「そう。だからこれから一緒に頑張ろうね!」
「はいっ! では、車内へどうぞ。ここでは寒いですから」
後部座席のドアを開けてくれた彼にお礼を言い、わたしたち親子は暖房の効いた車内のシートに腰を下ろしたのだった。