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――そしてやって来た、会長・篠沢絢乃のお披露目の日。
その朝、わたしはある決意を胸に秘め、自室の洗面台の前に立った。
丁寧に泡立てた洗顔フォームで顔を洗い、自慢のロングヘアーをブラッシングして、ウォークインクローゼットに足を踏み入れた。
「――よし!」
勇ましい気持ちで手にしたのは学校の制服である白いブラウスとブルーグレーのプリーツスカート、クリーム色のブレザーに赤いリボンの一式と、黒のハイソックス。制服姿で就任会見に臨むことで、〝女子高生と大財閥の会長〟の二刀流に挑むわたしの並々ならぬ決意を示すことにしていたのだ。
神聖な気持ちで身支度を整え、姿見に全身を映すと、同じ制服姿だけれど普段と違うわたしが見えた気がした。
「――おはよう、絢乃。もう支度できてる?」
廊下から母の声がした。どうやら史子さんではなく、母自らわざわざ呼びに来たらしい。
「は~い、もうバッチリだよ! 今行くね!」
わたしはウォークインクローゼットを出ると、大きな声で呼びかけに答えた。
通学用の黒いピーコートとスクールバッグを手に廊下へ出ると、グレーのパンツスーツ姿の母が軽く眉をひそめた。
「あなた、その格好で会見をやるってことは……。何を言われても覚悟はできてるってことでいいのね?」
その言い方は、非難しているというよりむしろ母親としてわたしのことを心配しているようだった。
「うん。わたしなら大丈夫だよ。後継者として指名された時から決めてたことだから」
わたしの覚悟の大きさを感じ取ったらしい母は、「分かった」と納得してくれた。
「じゃあ、朝ゴハンにしましょう。九時ごろに桐島くんが迎えに来るから」
「そうだね。彼も今日、本格的に秘書デビューだもんね。きっと張り切って迎えに来るよ」
彼の話になるたびに、わたしの表情はついつい緩んでしまう。やっぱりこれって、恋の魔力のせい……?
「――それにしても、その潔すぎる性格といい、一度決めたら絶対に曲げない意志の強さといい。絢乃はホント、パパにそっくりだわ」
「そうかなぁ? じゃあ、ママにそっくりなところってどこだと思う?」
わたしが首を傾げると、母は大まじめな顔で「顔かしらね」と答えた。
* * * *
――九時少し前。わたしと母が朝食を済ませ、優雅にコーヒー(わたしは父に似てコーヒー好きなのだ)と紅茶を飲んでいると、インターフォンが鳴った。
『――おはようございます。桐島です。お迎えに上がりました!』
「はーい。すぐ出られるから待ってて」
心なしか弾んだ声の彼に、わたしもウキウキと元気よく応じた。