「確かにそうかもしれませんけど。お嬢さまって、もっとお金を湯水のように使うイメージがあったので、つい……」

「よそのお嬢さまはどうか知らないけど、ウチはそんなことないよ? パパは元々一般社員だったし、ママだって教師やってた頃は自分のお給料、自分で管理してたっていうし。わたしも、そんな両親を見習ってるから」

 彼の持つイメージはわたしと真逆だったので、苦笑いしながら答えた。
 里歩と放課後にお茶する時だって、わたしは高級カフェよりもお手頃価格のコーヒーチェーンやファストフード店を選んでいたし、コンビニでスイーツやペットボトル飲料を買うこともしょっちゅうだ。そうやって、いかにお金をかけずに楽しく過ごせるかということを心掛けていた。ケチだからではなく、里歩や周りの人たちに気を遣わせたくないから。

「お金がたくさんある人ほど、お金の使い道には気を遣うものなんだって。これ、ママの()け売りね」

「なるほど……」

 よそのお宅はどうだか知らないけど、少なくともウチは代々そうしてきた。

「――お父さまとは、お家でどんな感じですか?」

「パパが病気だって分かってから、よく話すようになったよ。学校のこととか友だちのこととか、TVの話題とか。今までこんなに話してなかったことあったのかー、ってくらい。大した内容でもないのにね、何か話してるのが楽しいの」

 父との関係を訊ねた彼に、わたしは目を細めながら答えた。秋は日暮れが早く、西の空はオレンジ色と紫色のグラデーションになっていた。

「余命宣告された時はショックだったけど、今はパパと過ごす時間の一分一秒が(とうと)く思えるの。そう思えるようになったのは貴方のおかげだよ。桐島さん、ホントにありがと」

 そう言って彼に向き直ると、夕焼け色に染まった彼の姿にドキッとした。あまりにも幻想的で、ロマンチックだったから。

「いえ、感謝されるようなことは何も……。ですが、僕のアドバイスが絢乃さんに受け入れて頂けたようでよかったです」

 彼はまた照れたように謙遜した。彼は元々照れ屋さんなのかも、と思った。

「そういえば、もうすぐクリスマスですね。絢乃さんはもう予定が決まってらっしゃるんですか?」

「……う~ん、まだ特にこれといっては。桐島さんは? 彼女と過ごしたりするの?」

 わたしは当たり前のように訊ねたけれど、そういえば彼に恋人がいるかどうかもその時はまだ知らなかった。

「いいえ、僕もまだ何も。というか彼女はいないので、今年もきっとクリ()()()ですね……」

 彼は、バックに某大物男性シンガーのクリスマスソングがかかりそうな感じで答えた。

「……そう。わたしは毎年、親友と二人でお台場(だいば)にツリーを見に行くんだけど、今年はそれどころじゃないからなぁ。親友も遠慮するだろうし」

「そうですよね……。今年のクリスマスは、絢乃さんがお父さまと過ごされる最後のクリスマスですもんね」

「うん……」

 彼に言われて気がついた。そうか、父と過ごす最後のクリスマスか――。