「――それで、メールで伺っていた件について、詳しく話して頂けますか?」
わたしがお茶で喉を潤すのを見て、所長さんが本題を切り出すのと同時に、真弥さんはパソコンデスクに向かった。
貢がSNSで悪意に晒されていること、それによって彼のプライバシーを侵害しようとする動きがあることを話すと、内田さんではなく真弥さんの方がわたしに質問してきた。
「その人って、彼氏でしょ?」
「……ええ、実はそうなの。だからわたし、何としても彼のこと守りたくて」
「なるほどね。それで、すでに容疑者っていうか、疑わしい人物っているんですか?」
「一応……。友だちが言うには、俳優の小坂リョウジさんが怪しいんじゃないか、って。でも、嫌がらせの投稿をしたアカウントは彼の公式のものじゃなくて、どうやら裏アカウントらしくて」
「まぁ、公式のアカで堂々とそんなことやるバカはいませんからねー。ちなみに、その人があなたや彼氏さんを逆恨みする理由って何か思い当たります?」
CM共演を断ったことを話すと、真弥さんはデスクトップのPCで小坂さんに関するネット記事を検索し始めた。
「……小坂リョウジ、所属事務所の契約切られてますね。女グセの悪さに事務所も閉口してて、我慢も限界だったってことでしょう。彼はそれをあなたのせいにしようとしてるんじゃないですかね。もしくはあなたという女性に固執してるとか。それで彼氏さんに逆恨みしてるのかも」
「それって……、ストーカー化してるってことですか?」
「そうとも言えるかな。オレの経験上、そういうヤツは強硬手段で直接攻撃に出ることが多い。もしかしたら、君や彼が危害を加えられる可能性もあるかもしれない」
「大丈夫です! そういう時はあたしかウッチーがとっちめてやりますから。こう見えてあたし、実戦空手の有段者なんで☆」
「はぁ……、それは頼もしいです」
真弥さんは再びPCに向き直り、わたしに訊ねた。
「その発信元のアカ、分かりますか?」
「ええ。ちょっと待って……あ、これだ」
「じゃあ、ちょっとスマホ拝借しますね。このアカの持ち主を、IPアドレスから特定してみます」
彼女はわたしのスマホをケーブルでPCに繋ぎ、勢いよくキーボードを叩き始めた。わたしもタイピングの速さには自信があるけれど、彼女のはそれ以上に速く、見事なブラインドタッチだ。相当パソコンに精通していないとこうはならない。
「……あの、真弥さんってどうしてあんなにPC使いこなせるんですか?」
「ああ、彼女はプロのハッカーなんだ。ホワイトハッカー」
「へぇ…………」
ハッカーなんて、映画や小説の中だけの存在だと思っていた。まさか現実にいるなんて! でも、だからこそこの事務所は他でできないような調査ができるんだとわたしは納得した。
「――うん。やっぱ海外のサーバー使ってるね。正規の方法で辿れるのはここまでだけど……、あたしには裏技があるんだなぁこれが♪」
彼女はニヤリと笑って、超高速タイピングで打ち込んだメールをどこかに送信した。その文面は英語、中国語、韓国語やインド語など何ヶ国語もあった。
「裏技……って?」
「真弥には、世界中にハッカーのお仲間がいるんだ。そのネットワークを駆使して、どこの国のサーバーが使われたのかを特定するってわけだよ。な、真弥?」
「正解♪ で、お返事のあった国が当たりってわけ。……よし、ビンゴ!」
彼女のPCに来た返信メールの文面は中国語だった。
「……ってことは、中国のサーバーを使ったってこと?」
「ううん。確かにあたし、中国にもハッカー仲間がいるけど、正解はシンガポール」
「「シンガポール?」」
思わずわたしと内田さんの声がハモった。
「そ。あの国は多国籍だし、中国からの移民も多いから。ネット関係はけっこう緩いんだよ。メールをくれたあたしのお仲間は、中国から移住してる人。――あー、やっぱりね。このアカが作られたのと同じ時期に、ある日本人男性がアクセスした履歴を見つけたって」
わたしがお茶で喉を潤すのを見て、所長さんが本題を切り出すのと同時に、真弥さんはパソコンデスクに向かった。
貢がSNSで悪意に晒されていること、それによって彼のプライバシーを侵害しようとする動きがあることを話すと、内田さんではなく真弥さんの方がわたしに質問してきた。
「その人って、彼氏でしょ?」
「……ええ、実はそうなの。だからわたし、何としても彼のこと守りたくて」
「なるほどね。それで、すでに容疑者っていうか、疑わしい人物っているんですか?」
「一応……。友だちが言うには、俳優の小坂リョウジさんが怪しいんじゃないか、って。でも、嫌がらせの投稿をしたアカウントは彼の公式のものじゃなくて、どうやら裏アカウントらしくて」
「まぁ、公式のアカで堂々とそんなことやるバカはいませんからねー。ちなみに、その人があなたや彼氏さんを逆恨みする理由って何か思い当たります?」
CM共演を断ったことを話すと、真弥さんはデスクトップのPCで小坂さんに関するネット記事を検索し始めた。
「……小坂リョウジ、所属事務所の契約切られてますね。女グセの悪さに事務所も閉口してて、我慢も限界だったってことでしょう。彼はそれをあなたのせいにしようとしてるんじゃないですかね。もしくはあなたという女性に固執してるとか。それで彼氏さんに逆恨みしてるのかも」
「それって……、ストーカー化してるってことですか?」
「そうとも言えるかな。オレの経験上、そういうヤツは強硬手段で直接攻撃に出ることが多い。もしかしたら、君や彼が危害を加えられる可能性もあるかもしれない」
「大丈夫です! そういう時はあたしかウッチーがとっちめてやりますから。こう見えてあたし、実戦空手の有段者なんで☆」
「はぁ……、それは頼もしいです」
真弥さんは再びPCに向き直り、わたしに訊ねた。
「その発信元のアカ、分かりますか?」
「ええ。ちょっと待って……あ、これだ」
「じゃあ、ちょっとスマホ拝借しますね。このアカの持ち主を、IPアドレスから特定してみます」
彼女はわたしのスマホをケーブルでPCに繋ぎ、勢いよくキーボードを叩き始めた。わたしもタイピングの速さには自信があるけれど、彼女のはそれ以上に速く、見事なブラインドタッチだ。相当パソコンに精通していないとこうはならない。
「……あの、真弥さんってどうしてあんなにPC使いこなせるんですか?」
「ああ、彼女はプロのハッカーなんだ。ホワイトハッカー」
「へぇ…………」
ハッカーなんて、映画や小説の中だけの存在だと思っていた。まさか現実にいるなんて! でも、だからこそこの事務所は他でできないような調査ができるんだとわたしは納得した。
「――うん。やっぱ海外のサーバー使ってるね。正規の方法で辿れるのはここまでだけど……、あたしには裏技があるんだなぁこれが♪」
彼女はニヤリと笑って、超高速タイピングで打ち込んだメールをどこかに送信した。その文面は英語、中国語、韓国語やインド語など何ヶ国語もあった。
「裏技……って?」
「真弥には、世界中にハッカーのお仲間がいるんだ。そのネットワークを駆使して、どこの国のサーバーが使われたのかを特定するってわけだよ。な、真弥?」
「正解♪ で、お返事のあった国が当たりってわけ。……よし、ビンゴ!」
彼女のPCに来た返信メールの文面は中国語だった。
「……ってことは、中国のサーバーを使ったってこと?」
「ううん。確かにあたし、中国にもハッカー仲間がいるけど、正解はシンガポール」
「「シンガポール?」」
思わずわたしと内田さんの声がハモった。
「そ。あの国は多国籍だし、中国からの移民も多いから。ネット関係はけっこう緩いんだよ。メールをくれたあたしのお仲間は、中国から移住してる人。――あー、やっぱりね。このアカが作られたのと同じ時期に、ある日本人男性がアクセスした履歴を見つけたって」