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――桐島家のハンバーグは、我が家のと同じく牛豚の合挽き肉のハンバーグだった。
わたしは捏ね終えたハンバーグのタネを丸めて空気抜きすることと、ソース作りを任された。ソースはたっぷりキノコのデミグラスソースだ。
「お袋、絢乃ちゃん。オレも何か手伝おうか?」
プロの料理人である悠さんがキッチンを覗きに来て、声をかけてくれたけれど。お母さまはそれをやんわり断っていた。
「いいわよ。あんたは仕事から帰ってきたばっかりで疲れてるでしょ? 料理は私たちに任せてゆっくり休んでなさい」
彼がキッチンから出ていくと、わたしはブナシメジを裂きながらお母さまに「手伝ってもらわなくてよかったんですか?」と訊ねた。
「ええ、いいの。確かにあの子は料理がうまいけど、プロの味と家庭の味って違うでしょ? ウチの家族は私の味で慣れてるから」
「なるほど。〝おふくろの味〟っていうやつですよね」
「そう。それに、こうしてあなたと二人でお料理するの、楽しみにしてたのよ。ウチには娘がいないから、今日は娘ができたみたいで嬉しいの。もしくはお嫁さん、かしら」
「お母さま……」
「でも、貢は結婚したら、絢乃さんのお家に行っちゃうのよね。やだわ。もうあなたがお嫁さんに来てくれる気になっちゃって。ごめんなさいねぇ」
「ああ、いえ……。実はわたしと貢さん、まだ結婚に向けての具体的な話まではしてなくて」
「あら、そうなの? 確かにあの子、結婚に対しては消極的なのよね。抵抗があるっていうのかしら」
「え……」
思いがけず、お母さまから貢の過去の話が聞けそうな流れになり、わたしは手を止めた。
「……あの、お母さまは何かご存じなんですか? 息子さん……貢さんがそうなってしまった理由を」
お母さまが捏ね終えた肉ダネを成形しながら、わたしは訊ねてみた。
「あの子、絢乃さんにも話してなかったのね。そりゃ、あんな思いをしたんだもの。よっぽど耐えられなかったのね」
お母さまは難しいお顔をしてそう前置きしたあと、ポツリポツリと話し始めた。
「……あの子ね、もう一年になるかしら。お付き合いしてた女性に裏切られたの」
「えっ!?」
「同じ会社の同期だったらしいんだけど。彼女、もう一人の男性と二股かけてたらしくて。……貢はその子と結婚したがってたみたいだけど、彼女はそのもう一人の相手と結婚して、さっさと会社も辞めちゃったらしいの。何でも、どこかの会社の御曹司だったらしいのよ、そのお相手」
「……じゃあ、彼女は貢さんより玉の輿に乗る方を選んだってことですか? ひどい……」