「絢乃さんのコーヒーは、いつもどおり甘めのカフェオレにしてありますからね。今日はインスタントで申し訳ないですけど」

「ありがと。大丈夫だよ、インスタントも普通に飲むから、わたし」

「ケーキはみんないちごショートだからね、お父さん。絢乃さん、わざわざすみませんね、気を遣わせちゃって」

「いえいえ。みんな同じものなら揉めなくて済むかなぁと思っただけですから」

 手土産のケーキを買う時、実は相当悩んだのだ。無難に全部同じ種類で揃えるか、それとも別々の数種類を選んだ方がいいのか。はたまたホールケーキを一台ボンと買った方がいいのか。
 でも、後者の二つだとかなりの確率で揉める可能性が高かったので、あえて無難にいちごショートで揃えることにしたのだった。

「いただきます。……あれ? そういえば悠さんは?」

 さあ食べよう、と思ったところでふとここに一人足りないことに気がついた。

「あら、絢乃さんは悠とも面識があるんだったわね。今日は仕事が早番だって言っていたから、夕方には帰ってくるんじゃないかしら」

「そうですか。悠さんも頑張ってらっしゃるんですね」

「ええ。飲食業界って大変らしいけど、あの子もお給料安くても文句ひとつ言わずに働いてるわ。やっぱり、目標がある人って強いのかもしれないわね。私も結婚前はそうだったもの」

「お母さま、ご結婚前は保育士さんだったんですよね。貢さんから聞いてます」

「そうなのよ。夫は結婚しても仕事を続けていいって言ってくれたんですけどね、結局退職しちゃったの。銀行員の妻が専業主婦じゃないと、体裁(ていさい)が悪いって聞いたことがあったから」

「そうだったんですね……」

 というような女同士の会話を小声で交わしていたら、ガチャリと玄関ドアが開く音が聞こえた。

「……あ、悠さん、帰ってきたみたいですね」

「ただいま。……ってあれ? 絢乃ちゃん、来てたんだ? いらっしゃい!」

「おかえりなさい、悠さん。ご無沙汰してます」

「兄貴、LINE見てないのかよ。俺昨日送ったけど?」

「あ、やっべー。お前からのはまだ見てなかったわ。()りぃ()りぃ。……あ、ケーキあるじゃん♪ お袋、オレの分もある?」

 ――そんなこんなで、桐島家のご家族がやっと全員揃った。