「……美味しい。市販品とは薫りが違うね」
「畏れ入ります。――ところで絢乃さん、ひとつお願いしたいことがあるんですが」
「ん? なぁに?」
……来た。この切り出し方は会長秘書・桐島さんではなく彼氏モードになっているということだ。
「ここでは何なので、応接スペースで。……プライベートな話なので」
「うん、分かった。じゃあ移動しよう」
応接スペースのソファーセットに向かい合わせて腰を下ろすと、わたしは彼に話を促した。
「――で? わたしにお願いって?」
「ええとですね……。そろそろ、ウチの両親に絢乃さんのことを紹介したいんですけど。大丈夫でしょうか?」
「えっ? それは別に構わないけど……。もしかして、結婚考えてくれる気になった?」
「それはあの……、まだ追い追いということで」
「……なぁんだ」
わたしは期待を込めて彼に確かめたけれど、期待外れな返事が返ってきたのでガックリと肩を落とした。
「あの、それは別としてですね。絢乃さんには僕の〝彼女〟として両親に一度会ってほしいんです。……このごろ、週末は絢乃さんが食事を作りに来て下さるようになったので、両親が淋しがっているというか。僕はここ数年恋愛そのものから遠ざかっていたので、親が心配しているようなんです。それで、一度顔合わせしてもらって、安心させたくて」
「はぁ、なるほどね。つまり、ご両親に『こんな自分にもちゃんと彼女ができたんだよ』って、わたしをご両親に見てほしいわけだ」
「そういうことです。……お願いできますか? ウチの両親はいつでも構わないそうなので、日程は絢乃さんのご都合に合わせますから」
心優しくてご両親思いな彼の気持ちも分かるし、何よりわたしも彼のご両親には一度お会いしたいと思っていた。母には交際を始めた時に報告できたけれど、彼のご両親にはまだご挨拶すらしていなかったのでそれは不公平だと感じていたし。
「いいよ。わたしも、貴方のご両親には一度お目にかかりたいなって思ってたから」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「じゃあ、いつがいいかな? 早い方がいいよね。今月は……四週目に修学旅行があるから、その期間以外ならいつでも大丈夫だよ」
わたしはスマホでスケジュール帳アプリを開き、予定を確認した。
「今週末、土曜日あたりでどうかな?」
「はい、それで大丈夫だと思います。両親にもそう伝えておきますね」
「サプライズ訪問の方がいいかなーと思ったけど、やっぱり前もってお知らせしておいた方がいいよね」
「そうですね。サプライズはおやめになった方が」
「やだなぁ、冗談に決まってるでしょ」
渾身のボケに大真面目にツッコんでくれた彼に、わたしは苦笑いした。
「畏れ入ります。――ところで絢乃さん、ひとつお願いしたいことがあるんですが」
「ん? なぁに?」
……来た。この切り出し方は会長秘書・桐島さんではなく彼氏モードになっているということだ。
「ここでは何なので、応接スペースで。……プライベートな話なので」
「うん、分かった。じゃあ移動しよう」
応接スペースのソファーセットに向かい合わせて腰を下ろすと、わたしは彼に話を促した。
「――で? わたしにお願いって?」
「ええとですね……。そろそろ、ウチの両親に絢乃さんのことを紹介したいんですけど。大丈夫でしょうか?」
「えっ? それは別に構わないけど……。もしかして、結婚考えてくれる気になった?」
「それはあの……、まだ追い追いということで」
「……なぁんだ」
わたしは期待を込めて彼に確かめたけれど、期待外れな返事が返ってきたのでガックリと肩を落とした。
「あの、それは別としてですね。絢乃さんには僕の〝彼女〟として両親に一度会ってほしいんです。……このごろ、週末は絢乃さんが食事を作りに来て下さるようになったので、両親が淋しがっているというか。僕はここ数年恋愛そのものから遠ざかっていたので、親が心配しているようなんです。それで、一度顔合わせしてもらって、安心させたくて」
「はぁ、なるほどね。つまり、ご両親に『こんな自分にもちゃんと彼女ができたんだよ』って、わたしをご両親に見てほしいわけだ」
「そういうことです。……お願いできますか? ウチの両親はいつでも構わないそうなので、日程は絢乃さんのご都合に合わせますから」
心優しくてご両親思いな彼の気持ちも分かるし、何よりわたしも彼のご両親には一度お会いしたいと思っていた。母には交際を始めた時に報告できたけれど、彼のご両親にはまだご挨拶すらしていなかったのでそれは不公平だと感じていたし。
「いいよ。わたしも、貴方のご両親には一度お目にかかりたいなって思ってたから」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「じゃあ、いつがいいかな? 早い方がいいよね。今月は……四週目に修学旅行があるから、その期間以外ならいつでも大丈夫だよ」
わたしはスマホでスケジュール帳アプリを開き、予定を確認した。
「今週末、土曜日あたりでどうかな?」
「はい、それで大丈夫だと思います。両親にもそう伝えておきますね」
「サプライズ訪問の方がいいかなーと思ったけど、やっぱり前もってお知らせしておいた方がいいよね」
「そうですね。サプライズはおやめになった方が」
「やだなぁ、冗談に決まってるでしょ」
渾身のボケに大真面目にツッコんでくれた彼に、わたしは苦笑いした。