「ぐぬ……!!」
 茨が悔しげに唸ったそのとき、空から無数の羽音が聞こえた。

「ガハハハ。2000年生きた大妖怪が形無しじゃのお」
 その場にいた全員が夜空を見上げた。

「まんまと一杯食わされおったか。いやあ愉快愉快。美緒、お前さんなかなかやるではないか。気に入ったぞい」
 一族を率いて空を飛ぶ烏丸が、にやりと笑った。

 烏天狗の数はざっと三十羽だが、烏丸が援軍として呼んだのか、鳥や一反木綿に乗った動物のあやかし、人型のあやかし、さらに元から翼のあるあやかし等で空にいるあやかしの数は優に五十を越えていた。まさに空を埋め尽くさんばかりだ。
 その中には椿に乗った姫子も交じっている。

「烏丸様! 姫子ちゃん!」
 美緒は歓声をあげた。

「お待たせ!」
「あーちょっと危ないっすよ姫子ちゃん!」
 姫子は降下も待ちきれなかったらしく、椿の制止も無視して三メートルはありそうな高さから飛び降りた。

 膝の屈伸だけで衝撃を殺した姫子は、得意げに笑って玄関を指さした。

「あたしたちだけじゃないわよ」
 玄関からぞろぞろと現れたのは、花祈りの担当区域の子どもたちとその親、傘の穴を直してあげたからかさ小僧、貧血を起こして倒れていたところを介抱した雪女。
 その他にも、少し言葉を交わした程度のあやかしたちまで勢揃いしている。

 がさっと灌木が揺れて、綿ウサギたちが姿を現した。
 美緒が助けた親子を始め、数は十を越える。

「こんなに……みんな来てくれたんだ……!」
 感動で胸が震えた。

「あんたの人望よ。で、今度はあっち」
 言われるまま屋敷を見れば、軒下から銀太が駆けてきた。

 そして。
 銀色の狐に続いて現れた人物を見て、美緒は呼吸を止めた。

 鼓動すらも止まったように感じた。夜風も、世界も、何もかもが。
 永遠とも思える数秒が経過し、震える声で呟く。