美緒と朝陽は曲に合わせ、左右対称の動きで踊りながら籠に扇を差し入れ、扇を跳ね上げて桜の木に粉を振りかけた。
 桜の木は曲と美緒たちの踊りに合わせて次々と花を咲かせていく。

 ゆっくりとした曲調のときは枝葉の先から幹に向かってゆっくりと一つずつ花が開いていき、激しい曲調のときは美緒たちが一気に粉を振りかけるのに合わせて六つの木が満開に。

 つぼみも何もつけていなかった桜が一瞬で花開く様は圧巻だ。

 扇を振り、回し、舞い踊りながら横目で見れば茨も満足そうである。
 いよいよクライマックス、残すのは桜の木々の中央にある枝垂桜だけとなった。

 二ヵ月もの間、頑なに咲かなかった枝垂桜――紅雪。

 ここが山場とばかりに音楽が盛り上がる。

 激しい旋律が鳴り響く中、傍まで来た朝陽が狐へと変化し、籠の中に突っ込んで全身に粉を浴びた。

 何が始まるのかと観客が興奮気味に見守る中、美緒は狐となった朝陽を胸に抱え、回転をつけて空高く放り上げた。

 朝陽がくるくると回転し、全身から光の粉をまき散らす。

(紅雪ちゃん、お願い!)
 光り輝く粉を浴びて、枝垂桜はついに花開いた。
 周りの木々よりも色濃い花が満天の星の下、夢のように美しく咲き誇る。 

 朝陽は落下途中で人へ戻り、膝を折り曲げ、地面に片手をついて着地した。
 そして満開の枝垂桜を背景に立ち上がり、優雅に一礼。

 見守る鬼たちから、おお、と感嘆の声と拍手が起きた。