「ようこそお越しくださいました。どうぞ、茨様はこちらのお席へ」
 顔を上げて、茨を最前列の特等席へ案内する。
 この席だけ一人用で、野点傘には花びらが渦を巻くような絵柄がある。

 円形座布団は他と比べて分厚く、茶器も最も高級なものを選んだ。

「うむ」
 茨はどかりと座布団に腰を下ろした。

「しかしこれはなんだ?」
 茨が顎で示したのは、茶器の隣に置かれた鳥籠。
 鉄製の鳥籠は花や蔦で華やかに飾り付けられ、周囲に果物がちりばめられていた。

「装飾です。ただ果物を置くのも味気ないかなと愚考しまして……お気に召さないようであればいますぐ撤去しますが」
「ふん。やはり下賤よの、感性を疑うわ」
「申し訳ございません」
「まあ良かろう。許す」
 茨はリンゴを手に取って齧った。茨が果物の中でリンゴが好きだというのもリサーチ済みである。

「さっさと花を咲かせろ。花見会に愛でるべき花がないなどお笑い種だろうが」
「はい。それでは始めさせていただきます。よろしくお願いしますね、皆さま」
 使用人たちに一声かけてから、美緒と朝陽はそれぞれ右手に扇を、左手に粉の入った籠を下げ、美緒は桜の木々の左手に、朝陽は右手へと移動した。

 美緒がすっと右手に持った扇を上げると、使用人たちが音楽を奏で始めた。
 曲の名は知らない。

 ただ、ヨガクレに古くから伝わる民謡だと聞いた。
 きっと茨を始め、他の鬼たちも知っているだろう。全く知らない曲よりも知っている曲のほうが客も乗りやすい。