「朝陽くん?」
「~~~~~~っ」
 副作用でもあったのかと心配する美緒の呼びかけにも答えず、朝陽は顔を覆ったまましゃがみこんだ。

 ぽんっと煙が上がり、狐の姿になった朝陽は、ふらふらとよろけながら部屋の隅に行った。

 こちらに背を向け、何やら小声でぶつぶつ呟いてから、ぱたっとその場に倒れ伏す。

 かと思えば、今度は頭を抱えてごろごろ転がり出した。

「どうしたの? 大丈夫?」
 近寄ってしゃがむと、朝陽は壁に顔を向けて止まり、寝転がったまま言った。

「美緒」
「はい」
「台所から包丁持ってきておれを刺してくれ」
「なんてこと言うの!?」
 血相を変えて朝陽の顔を覗き込もうとしたが、朝陽は前足で顔を覆って隠した。

「いや。おれは刺されて当然のことをした」
「してないよ!!」
 全力で突っ込む。

「おれの主観ではしたんだ。必要なときはおれが闘うとか、茨には美緒を傷つけたら殺すとか大口叩いておきながらこの失態。もう腹を掻っ捌いて詫びるしかない。鋸引きでも釜茹ででも、気が済むようにしてくれ」
 朝陽は最近時代劇の再放送にはまっていた。

「尻尾を切って本物の尻尾アクセサリーにしてもいいし皮を剥いでコートにしてもいい……剥製にされても構わない……」
「もう。止めてってば」
 聞くに堪えず、抱き上げると、朝陽はようやく口をつぐんだ。

 しかし、耳も尻尾もだらんと垂れ、四肢も投げ出している。

 よっぽど茨に支配されたことがショックだったようだ。
 美緒は苦笑して朝陽を抱く手に力を込め、優しく頭を撫でた。