部屋に戻ると待ち構えていた使用人たちに風呂場――贅沢な露天風呂だった――に案内され、着物に着替えさせられた。

 使用人が着ているものより鮮やかで濃い赤色の着物だ。
 お下げにしていた髪が結い上げられたおかげで少々頭が重い。

 いや、頭が重いのは眠いせいかもしれない。

 使用人に頼んで部屋に持ってきてもらった古風な置時計は三時過ぎを指していた。普段ならとうに眠っている時間帯である。

 眠気覚ましにお茶を飲んでいると「現世の食材が届いた」と言われ、離れの屋敷へと連れて行かれた。

 食材は美緒が頼んだものだ。
 明日――いや、日付が変わったいまとになっては今日の夜の花見会で料理を提供したい、美味しい料理を作って茨に喜んでもらいたいと言ったら茨はまんざらでもない様子で現世から食材を調達すると請け負ってくれた。

 完璧な料理を作り上げるためにも料理上手な朝陽にアシスタントを頼みたい。
 そして当日の楽しみにしてもらいたいので作っているところは使用人や他の誰にも見られたくない、どうか朝陽と二人きりにしてほしい――後半はダメ元の申し出だったが、茨は了承してくれた。

 何を言われようと平身低頭し、へりくだり、心にもない言葉を並べ立てて持ち上げた甲斐があったというものだ。

(――あ)
 屋敷の玄関前に朝陽が立っていた。

 朝陽も風呂に入ったのか、髪が湿り、紺色の着物を着ている。
 初めて見る着物姿は良く似合っていたが、見惚れるには彼の眼差しが強すぎた。

 茨様に言われたから仕方なく来てやっただけでお前と馴れ合う気なんてさらさらないと目が言っている。