「2000年生きてる大妖怪ですからね。子どもだけじゃなく、孫、ひ孫、曾孫、玄孫、来孫、昆孫……子孫の人数なんてもう誰も知りませんよ。把握するには数が多すぎる。各地に現地妻がいるというし」
 指折り数えていた百地は手を広げた。

「そうなんですね……あ、いえ、お話したいのはそういうことではなくて。単刀直入にお聞きします。何故あなたはこの屋敷で一人だけ正気を保っていられるんですか?」
 紅雪は強烈な茨への反抗心に加えて、屋敷の外に本体があるため香の支配から逃れられていると理解できる。

 もしかしたら西棟には香が焚かれていないのではないかと思ったが、ここにも花の匂いは充満していた。

 この屋敷にいる鬼たちは皆、大なり小なり香の影響を受けていた。

 酷い者は美緒に直接攻撃をしてくる――といっても、茨の厳命があるため生命を脅かすような真似はしてこないが――し、軽い者でも美緒を睨むくらいはしてくる。

 屋敷の内部にいながら好意的な者などどこにもいない、そのはずなのに彼は美緒を気遣ってくれた。

「香から逃れられる方法があるのなら教えていただけないでしょうか。わたしの友人が命を握られているんです。こんなこと、ご子息であるあなたに言うべきではないのかもしれませんが、わたしは明日、お父様を罠にかける準備を整えています。同時に烏天狗の群れがこの屋敷を覆うことになるでしょう」
 美緒は銀太にできるだけの味方を集めてほしいと頼んだ。

 今頃銀太は作戦に不可欠なものを手に入れ、烏天狗の楼閣に向かっているはずだ。
 明日は椿や姫子も来るだろう。何を差し置いても来てくれるはずだ。それだけの絆がある。

「思惑通りに事が進めば、お父様はわたしに無力化され、その状態のまま烏丸様の裁きを受けることになります。あなたのお父様は烏丸様の部下を不当に拉致し、幽閉した。場合によっては死を覚悟していただくことになるでしょう。烏丸様は血の気の多い方ですから」
 百地は深刻な表情で、畳の一点を見ている。