「失礼いたします」
 使用人が襖を開くと、そこは狭い和室だった。
 床の間に大小二つの丸窓があり、手前に竹の格子が走っている。
 飾り棚には小物が飾られているが、部屋にあるのはそれだけだ。

 物で溢れ返っていた茨の部屋と比べると物の密度が全く違うが、この部屋のほうがよほど落ち着く。

 部屋の端の文机の前に鬼が座っていた。
 水とお茶を差し入れてくれた優しい鬼は、さきほどの猫背とは打って変わって背筋を伸ばしていた。
 美緒の訪問を見て、何らかの覚悟を決めたようだ。

「君は下がって。周りにいる使用人たちにもそう伝えてほしい。彼女と二人きりで話がしたいんだ」
「……かしこまりました」
 ほんの少しだけ不満を覗かせたものの、使用人は百地に頭を下げ、美緒にきつい一瞥を投げてから立ち去った。

「どうぞ。入って……いや、お客さん用の座布団がないんですよね。場所を移動しましょう」
「いえ。気を遣っていただく必要はありません」
 立ち上がろうとした百地を制し、美緒は畳の縁を踏まないように注意して彼の向かいに座った。

「用件は、父のことですね?」
「はい。やはりあなたは茨様のご子息なんですね」
「ええ。百人目のね」
「百人!?」
 さすがに驚いたが、百地は微かに笑った。