茨との面談を終えた後、美緒は使用人に先導されながら廊下を歩いていた。
 地下牢があるという西棟へ向かう道中で出会う屋敷の使用人たちは例外なく、美緒を見ると不快そうな顔をする。

 すれ違いざまにわざと肩をぶつけてくる根性の悪い鬼もいた。
 足を引っかけられそうになって避けたら舌打ちされた。

 しかし美緒はささいな嫌がらせなど気にしなかった。
 そもそも使用人たちが過剰に攻撃的なのは香のせい、つまりは茨のせいだ。

(あいつ本当に最悪だわ。わたしが一番嫌がることを見抜いてる)
 面談を思い出すだけでも腹が立つ。

 茨は高級そうな座椅子に座り、あろうことか膝の上に狐姿の朝陽を乗せていた。
 朝陽はうずくまり、陶酔したように半分目を閉じていた。

 面談中、朝陽を撫でながら茨が言い放った言葉が忘れられない。

「野狐といえど毛並みはそう悪くないな。どれ、毛皮を剥いで襟巻にでもしてやろうか」
「本当ですか? なんという栄誉でしょう。死してなお、茨様のお傍にいられるのなら本望です。是非そうしてください」
 前足を突っ張り、嬉しそうに見上げる朝陽の頭を撫で、茨は勝ち誇ったような顔で美緒を見た。

 頭どころか全身の血管全てが切れてしまいそうだったが、それでも演技を貫き通し、明日の花見会の開催許可を得た自分を褒めてやりたい。

 美緒は意図せず握っていた拳を解き、渡り廊下を渡って右に曲がり、二つの和室を抜け、さらに奥へと進んだ。

 目的の部屋に着いたらしく、使用人は美緒に座るよう指示し、自らも座して手をついた。

「百地《ももち》様。人間の娘が面会を申し込んでおります。差し入れの礼を申したいとのことですが、いかがしましょう?」
「……。どうぞ。入ってもらって」
 逡巡するような間を挟んで許可が下りた。