神社で立ち話もなんだから場所を移そう、と言って、朝陽が美緒を誘ったのは市の外れにある大きな市民公園だった。

 春休みのこの時期、園内は多くの花見客や家族連れで賑わっている。

 朝陽は人ごみを避け、静かな広場のベンチに腰を下ろした。

「銀太は生まれつき身体が弱かったんだ。喘息体質で、ちょっとしたことですぐに発作を起こすし、心臓も悪かった」

「……あ」
 夏祭りの夜、巨漢のあやかしに肩を掴まれそうになったとき、銀太は胸を押さえていた。

 顔色が青白く見えたのは、恐怖のせいではなく、心臓の発作のせいだったのだろうか。

(……気づかなかった)
 美緒は唇を噛んだ。

 出会ったとき、カラスに一方的にやられていたのも、身体の弱い銀太には抵抗するほどの力がなかったのだ。

「一年前の冬に風邪をこじらせて、そのまま……。色々と手を尽くしたけど、駄目だった」
 朝陽は淡々と語ったが、目の前の芝生を眺める瞳には悲しみが浮かんでいる。

「……そうですか。残念です……本当に」
 美緒は肩を落とした。
 七年経ってもたされたのが訃報なんて、あまりにも悲しくて、衝撃で、他に何を言えばいいのかわからない。

「……生きてるうちに、会いたかったです」
 呟くように言って、茶色のコートを握る。
「『断ち物』って知ってるか?」
「? いえ」
 唐突とも思える言葉に、美緒は戸惑った。

「より強く願掛けために好きなものを絶つことだ。銀太の場合はそれが君だった。縁日の後、銀太は無理が祟ってしばらく寝込んだ。ようやく起き上がれるようになった頃、あいつ、身体が丈夫になるまでは美緒に会いに行かないって言ったんだよ。おれも賛成した。身体がよくなってから、ゆっくり会いに行けばいいって」

 朝陽は感情を交えずに話す。

「稀に調子がいい日もあって、君に会いに行こうとしたこともあったんだけど、おれが止めた。ほとんど寝たきりの状態なのに、無理をして倒れるのが心配だったから……でも、いま考えてみれば、背負ってでも連れていってやれば良かった。おれが反対したせいで再会する機会を永遠に失わせてしまった。銀太は本当に君に会いたがっていたのに。君にも銀太にも、悪いことをした」

 朝陽は詫びるように頭を下げ、そこで初めて表情を動かした。
 悔しげな、辛そうな顔。
 己の選択を後悔している者の顔だった。