(………………あれ?)

 胸の内で導き出された回答にこそ混乱した。
 なんだこれは。これではまるで朝陽のことが好きみたいではないか。朝陽はあやかしで、美緒は人間なのに。自分たちの間には厳然と立ちはだかる種族の壁が――いや烏丸の薬があればその壁もなくなるんだったか。
 ならば障害などないではないか。

 いやいや、ちょっと待てと理性が感情を制する。いま恋とかそんな呑気なこと言ってられる状況じゃないだろう! と声を大にして叫んでいる。

 幽子のこと、紅雪のこと、いまだ戻ってこない朝陽のこと、茨に心酔するあやかしたち、ペットボトルを差し入れてくれた気弱そうな謎の鬼。
 ただでさえ考えなければならないことが山積みなのに、これ以上悩みの種が増えたら美緒の頭がパンクしてしまう。

「そ、それはその……」

「何真面目に答えようとしてんの。フラれたあんたには関係ないって言ってやればいいのよ」

 黒田と繋いでいた手が突然揺れて、離れた。
 驚いて見下ろせば、小さな手がすっと引かれたところだった。

「紅雪ちゃん?」
 姿を消したはずの紅雪がいつの間にか、黒田と美緒の中間地点に立っていた。
 彼女が黒田の手首に手刀を入れ、繋いでいた手を強引に離させたらしい。

 紅雪は有無を言わさず美緒と黒田の手を掴んで移動した。

「どこに行くのかな」
 黒田の質問にも答えず、紅雪は開けた場所で止まり、手を離した。

「桜の精や、誰かの耳に入ることを恐れた、っていうところかな? 皆で内緒話でもしたいの?」
「さあ」
 何もない周囲を見回した黒田の問いに、紅雪は冷たく答えた。

「つれないね。君、あの枝垂桜の精霊でしょう? 名前は紅雪っていうんだ。初めて知ったよ」
 黒田は枝垂桜を見てから、口元をつり上げて美緒を見た。

「初日で枝垂桜の心を掴んでしまうとは、さすが美緒ちゃん。朝陽くんといい姫子ちゃんといい、君は本当にあやかしに好かれるみたいだね」
「ふざけたこと言ってんじゃないわよ」
 紅雪は黒田を睨みつけた。