突然すぎる告白に頭の中が漂白された。
 口をぱくぱく動かすが、声が出ない。何を言えばいいのかさっぱりわからない。

(わたしのことが好き?)
 頻度の高いスキンシップ、隙あらば繰り出される甘い言葉、耳元で囁かれる魅力的な低音ボイス、全ては冗談だと思っていた。

 美緒は黒田の人気を知っている。
 積極的な女性のあやかしからのアプローチに余裕の表情で受け答えする黒田の姿を何度か見ている。

 あんなにもてるのに、黒田が平凡な人間である自分を本気で好きになるわけがない。

 そう思っていたのだ。いまこの瞬間まで。
 しかしその思い込みが打ち壊された以上、美緒は返事をしなければならない。

 黒田は大真面目な顔で美緒の手を取り、答えを待っている。

「…………ええと。なんというか。ありがとうございます……」
 美緒は視線を足元に落とし、しどろもどろに言った。

 告白されたことは素直に嬉しいと思う。
 好意を寄せてもらえるというのはありがたいことだ。

 でも、嬉しさよりも困惑のほうが大きいと伝えなければならない。
 正直に答えることが、美緒にできる精一杯の誠実だから。

「黒田さんにはこれまで本当に良くしてもらいましたし。好きか嫌いかで答えるなら、もちろん好きなんですが、でも、ごめんなさい。特別な好きではないんです」
「……朝陽くんのことが好きなの?」
 握る手に力を込め、黒田は悲しそうな顔をした。

「同棲してるくらいだもんね。好きに決まってるか」

「いえそんな、そういうわけでは。彼がわたしの家にいるのは、住む予定だったアパートが全焼してしまったからで――」
「じゃあ朝陽くんが好きだって言ったらどう答えるの?」

「え」
 もしも朝陽が美緒の手を取り、好きだと告白してきたら。
 それは当然驚くだろう。何を馬鹿なと狼狽もする。

 でも、きっと美緒は喜ぶ。