「これ、飲み物です。食事のときに飲み物がないと大変でしょう? すみません、うちの使用人たちが隠したようで、とんだ失礼を」
「え、いえ」
 頭を下げられ、反射的に頭を下げる一方、大いに混乱していた。
 敵だらけのこの屋敷において、美緒に敬意を払う鬼がいるとは露にも思わなかった。

(『うちの』使用人って、どういうことだろう?)
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 不思議に思いつつも、美緒は差し出されたビニール袋を受け取った。

「ではそういうことで」
 鬼は踵を返した。

「えっ。あの、せめてお名前を」
「いえ。名乗るほどのものではありませんので」
 鬼は逃げるように早足で廊下を歩いていった。これではどちらが鬼なのかわからない。

 美緒はぽかんとした後、ビニール袋を開いてみた。
 五百ミリリットルのお茶と水のペットボトルが一本ずつ入っていた。