早く帰れるように頑張ると言ったものの、あれから紅雪が姿を現すことはなく、滞在することが決まってしまった。

 屋敷の奥にある豪奢な私室に美緒を呼びつけ、報告を求めてきた茨には「やはりその程度か」と鼻で笑われた。

 ビニール包装に包まれたままで渡されたコンビニ弁当は冷めきっていて美味しくない。

 美緒は先行きと現状に対する不安を抱えたまま、広い和室で一人、黙々と箸を動かしていた。
 黒田は飛び去り、朝陽は何故か客人扱いされ、茨と食事を取っている。

 屋敷が広すぎて茨たちの声がここまで届くことはないが、歓談しているはずもない。ピリピリした空気の中の食事は朝陽の胃に大きな負担をかけるのではないだろうか。

 面倒事に巻き込んでしまった。
 美緒は良枝の孫ということで茨に目をつけられる理由があるが、朝陽は何の関係もないのに。

 嘆息が漏れた。
 今頃姫子たちはどうしているだろう。
 黒田から美緒たちの現状を教えられ、何かリアクションを起こしただろうか。それとも心配しながら現世に帰っただろうか。

 もし姫子たちが会いに来てくれたとして茨は歓迎するだろうか。

 美緒はまた吐息した。あれこれ考えたところできりがない。

 味のしない冷たいご飯を無理やり喉に詰め込む。
 飲み物がないので嚥下に苦労する。使用人たちが意地悪で奪ったに違いない。箸まで奪われなかったことを幸運に思うべきか。