(やっぱりここは敵陣なんだ。みんなおばあちゃんのことでわたしを目の敵にしてるのね。でも、茨さんは一応わたしを守ってくれるつもりはあるんだ。それならなんとかやっていける……かなぁ)

 振り返れば、屋敷のそこかしこから嫌悪と侮蔑の視線を感じる。
 目が合った鬼は怯むどころか睨み返してきた。
 視線で人を殺せるなら美緒はとうに絶命している。それほどの眼力。
 早くも帰りたい気持ちでいっぱいになり、美緒は小走りに駆けて客間の前まで移動した。

 十メートルほど離れた客間では、朝陽と茨が何か話し合っている。
 朝陽の姿を見ていると、枯渇しかかっていた気力が泉のように沸いてきた。

 大丈夫。もし何かあれば朝陽は駆けつけてきてくれる。
 そう信じ、美緒は負けじと足を踏み出した。

 気分転換するべく空を見上げれば星。
 アマネの儀式が行われたおかげで、夜空の星は美しく光り輝いていた。

 落ち込んだ気分がいくらか和らぎ、視線を落として歩く。
 庭といっても近所の公園くらいの広さはある。
 ちょっとした滝があり、池があり、池の中で鯉が泳いでいる。
 石灯籠に照らされた庭は幻想的に綺麗で、異界のようだ。

「……これか」
 茨に教えられた問題の枝垂桜は、満開の桜の木々の真ん中に立っていた。
 なるほど、この枝垂桜だけ、花どころかつぼみさえもついていない。

 四方八方に枝を伸ばし、その枝が幹を包むようにだらんと垂れている。
 精気がなく、このまま枯れてしまいそうな危うさがあった。
 そっと幹に手を触れ、呼びかける。