茨と会話している間に陽は沈んでいた。
 玄関で靴を履いて庭に出ると、赤い着物を着た――恐らくは使用人だろう――女性の鬼たちが石灯籠に火を入れていた。

 籠を手に下げた美緒の姿を認めて、そのうちの一人が「あら」と目を丸くする。

「その籠、あなた、花祈りかしら? 茨様に招かれたの?」
「……はい。美緒といいます」
 ためらいがちに名乗った瞬間、やはりというべきか、女性は顔を険しくした。

「美緒。あの忌々しい良枝の孫ね」
「なんですって!」
 近くにいた鬼が甲高い声で叫んだ。

「ちょっとみんな! 茨様に恥をかかせた良枝の孫がここにいるわ!」
 叫びを聞いた他の鬼たちが寄って来て、あっという間に美緒は取り囲まれた。

「八つ裂きにしてやろうかしら」
「爪を剥いで池に沈めてやりましょう」
「駄目よ、池の水が汚れるわ。茨様の池を汚すなんて言語道断」
「じゃあ火あぶりにする? ちょうど火があるわよ」
 鬼は透明な液体に満たされた皿を掲げた。
 匂いからして液体は油だ。石灯籠用の油皿らしい。
 彼女のもう一方の手にはマッチがある。

「それだ」「それね」
 鬼たちは一斉に頷いた。
「そうと決まれば薪を集めなければ」
「この女を括りつける太い柱もいるわね。材木屋で調達してくるわ」

「勝手なこと言わないでください!!」
 左右の腕をそれぞれ違う鬼に掴まれたところで、美緒は青くなって叫んだ。

「わたしは茨様に頼まれて桜を咲かせに来たんです! 火あぶりなんてしたら怒られるんじゃないですか!?」
 鬼たちは顔を見合わせた。
「それもそうね」
「火あぶりにしていいか伺ってみましょう」
 一人の鬼が屋敷のほうへ駆けて行った。

 庭を吹く風が十往復くらいしたところで戻って来た彼女は胸の前で腕を交差させ、×印を作っていた。