「――金色《こんじき》、金糸雀《かなりあ》、山吹《やまぶき》を朝陽くん。茜、真紅、臙脂《えんじ》を姫子ちゃん。で、美緒ちゃんなんだけど」
「はい?」
 担当区域は正体の色にちなんで決まったんだろうな、と呑気に考えていた美緒は、急に名前を呼ばれて目を瞬いた。

「今日は違うところに行ってもらいたいんだ。どんな桜も見事に咲かせる君の高い評価を聞きつけた方がおられてね。是非君を招き、屋敷の花を咲かせてほしいとのご依頼だ。依頼料は前払いで頂いていて、今日の手当ては2倍になる」
「わあ」
 美緒は胸の前で手を合わせて喜んだ。
 収入が増えれば姫子の願いの実現がそれだけ近くなる。

 いままで「時間をかけすぎ」だの「ただ粉を撒けばいいだけなのになんでいちいち木の一本一本に祈るのか」だの「なんで小便臭い人間の小娘なんぞが儂らに混じって働いとるんじゃ。花祈りは儂らの仕事じゃぞ」と烏天狗に陰口を叩かれてきたが、真面目に仕事していて良かった。
 同時に、担当区域のあやかしたちと会えなくて残念だなとも思う。

 この三週間で顔見知りも増えた。
 気難しい山姥のおばあさんも挨拶を返してくれるようになったし、担当区域に住むあやかしの子どもたちも朝の散歩がてら、花を咲かせて回る美緒の後をついてきて、一緒に桜に祈ったりもする。

(あの子たちもそうだけど、綿ウサギたちも、わたしがいないと少しは気にするかな)

 一週間ほど前、美緒はウサギのような長い耳を持つ小動物に粉の入った籠を奪われた。

 朝陽にヨガクレに連れて来てもらった日、茂みの向こうから伺うようにこちらを見ていたあの小動物だ。