据えられた竜神の像が水を吐き出す構造になっているが、現在は停止中。
 水面が現世に比べるとささやかと思える柔らかな陽光を反射して煌いているだけだ。

 この噴水はあやかしたちの待ち合わせスポットで、夜には多くのあやかしが集う。

 でも、いまは夕暮れ時――夜行性のあやかしたちにとっては夜明け前と同義なので、視界内にいるのは二、三のあやかしだけだ。
 仕事帰りなのか、だらしなく前をはだけさせた着物姿の鬼の中年男性が眠そうに目を擦って歩いていた。

 四日前はここに櫓が建ち、アマネが優雅に舞ったのだろう。

 雨が降りそうだからという理由で予定時刻が大幅に繰り上がったのが惜しまれる。

 美緒たちがヨガクレに来たときは雨が降っていた。

 櫓は既に解体されており、バイトを終えた後であやかしに混じってアマネの神社に参拝こそしたものの、最も見たい舞を見ることができなかった美緒はリベンジを固く誓っていた。

 ふと辺りが暗くなった。
 視線だけ上げて見れば、大きな鳥に乗った猿や狐が何匹か空を飛んでいる。

 たすき掛けにした赤い鞄。
 赤い帽子を被る彼らは新聞配達員で、帽子と鞄に入ったマークが新聞配達員の印なのだと朝陽に聞いた。

 ちなみに朝陽も小さい頃、あの鳥に乗って新聞配達員のバイトをしたことがあるらしい。
 新聞配達員に郵便配達員に町中の掃除、ベビーシッター等々、とにかく雇ってもらえるならどこでも働いたという。銀太を養い、育てた苦労が窺い知れる。

「それじゃ今日の担当区ですが、ほとんどの人は昨日と一緒です。蘇芳、薄紅、銀朱《ぎんしゅ》を寛爾《かんじ》さん。瑠璃、青藍《せいらん》、紺碧《こんぺき》を義経《よしつね》さん――」

 黒田が言っているのは町の名前だ。
 ヨガクレの町は全て色の名前なのである。