「一緒よね」
「うん、一緒……だと思う」
「ただ似てる、だけじゃ済まないだろうな。筆跡も同じだし、やっぱりそういうことだろう」

 リビングの座卓に母自作の絵本と幽子が描いたイラストを並べて意見を求めると、二人と一匹の見解は美緒と一致した。

 しかし、いかに気になることがあろうともそう簡単にバイトを休むわけにはいかない。
 学校に住み着いている幽霊が自分の母なのかもしれない、という疑惑は当事者にとっては一大事だが、他人にとっては些末事だ。

 特にヨガクレは幽霊でも妖怪でもなんでもありの異世界である。

 人気のないところまで行って探さなくとも、大通りを幽霊が普通に歩いていたりするし、美緒の近くにも弟の幽霊とともに日常生活を送る狐がいる。

 儚げな美少女幽霊の正体なんて大したことではない。
 いま何より重要なのは目の前のバイト。

 美緒はそう思い込むことで雑念を無理やり追い払っていた。

「はい、皆さん揃いましたね。今日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

 烏丸はその経営手腕と幅広い人脈を見込まれ、ヨガクレの長――いわば領主から観光事業を託されている。

 烏丸は大地を流れる霊脈から動植物を活性化させる特殊な粉を精製し、その粉を撒くことでヨガクレを彩る無数の桜を咲かせる『花祈《はないの》り』という職業を生み出した。

 その現場監督官、黒田のにこやかな挨拶に、約二十羽の烏天狗と、列の端にいる美緒たちの声が重なる。

 烏天狗たちは紺色の上着を、美緒たちは紺色の法被を着ていた。
 背中に桜の花のマークがついたこの法被が仕事着だ。

 ここは日が翳りつつあるヨガクレの中央広場。
 大通りが交差する広い場所で、黒田の前に整列した美緒たちの斜め前には円形の噴水がある。