「そうなの。残念ね、見てみたかったのに。姫子ちゃんといえば、銀太くんに聞いたわ。三日前、石田くんっていう男の子から皆の前で告白されたんでしょう? あれからどうなったの?」
尋ねる幽子の目には好奇心がありありと浮かんでいた。
幽霊とはいえ恋の話が好き。
やっぱり幽子は真実女子のような気がする、と思いながら美緒は答えた。
「きっぱり諦めたみたいで、近づく素振りもないですよ。まあ、あんな振られ方をすれば当然のような気もしますけどね……」
華やかな美少女の姫子に想いを寄せる男子は何人もいたが、常日頃の言動から姫子が優を好きなのは一目瞭然なので、告白まで踏み切ろうとするものは誰もいなかった。
しかし、一人だけ廊下で堂々と姫子を呼び止め「魚住さん、好きです、付き合ってください!」と告白した猛者がいた。
それが石田という隣のクラスの男子である。
その場にいた全員が注目する中、姫子は「気持ちは嬉しいけれどあたしは身も心も天野くんのものなので」と、真顔でとんでもない発言をかました。
赤面した優が教室から飛び出してきて「すみません本当すみませんちょっと姫子ちゃんこっち来ようか」と姫子の手を引いて退場するという一幕があってからというもの、石田はもちろん、姫子に言い寄る者はいなくなった。
もはやあの二人は公認カップルと化している。
姫子が昼食時に「はい、あーん」と典型的なバカップル発言をしようとも優が恥ずかしがろうとも、生温かい視線が注がれるだけだ。
「そう。石田くんには気の毒だけれど、足を手に入れた現代の人魚姫の恋が叶いそうで良かったわ。私、人魚姫って悲しいお話だからあんまり好きじゃないのよね。でも、姫子ちゃんの物語はハッピーエンドで締めくくれそうで嬉しい」
幽子は本当に嬉しそうに笑って、手を合わせた。
「そうそう、美緒ちゃん。図書室のね、西洋哲学の棚の、一番上の右端から三番目の赤い本を開いてみて。この前の日曜日に姫子ちゃんが天野くんとデートしたって聞いたから、お祝いの絵を描いてみたの。姫子ちゃんに渡してちょうだい。喜んでくれるといいんだけど……」
「はい。それは構いませんけれど……絵を描いたって、どうやって?」
目をぱちくりさせると、幽子は悪戯が見つかった子どものように、小さく肩をすぼめて笑った。
「さっき、図書室で寝てる子がいてね。寝てる間だけ身体を借りたのよ」
「……そんなこともできるんですね」
「ええ。幽霊だもの」
(そっか。幽霊は憑依できるんだ。ってことは、銀太くんも誰かに乗り移ったりできる……?)
もし銀太が朝陽に乗り移って、美緒と抱きしめ合えたら、朝陽の心残りも少しは晴れるだろうか。
帰ったら銀太に聞いてみようと考えていると、隣のテーブルにいた男子生徒たちがこちらを見ていた。
さっきからこいつは何を一人で喋っているのだろう。そんな顔をしている。
尋ねる幽子の目には好奇心がありありと浮かんでいた。
幽霊とはいえ恋の話が好き。
やっぱり幽子は真実女子のような気がする、と思いながら美緒は答えた。
「きっぱり諦めたみたいで、近づく素振りもないですよ。まあ、あんな振られ方をすれば当然のような気もしますけどね……」
華やかな美少女の姫子に想いを寄せる男子は何人もいたが、常日頃の言動から姫子が優を好きなのは一目瞭然なので、告白まで踏み切ろうとするものは誰もいなかった。
しかし、一人だけ廊下で堂々と姫子を呼び止め「魚住さん、好きです、付き合ってください!」と告白した猛者がいた。
それが石田という隣のクラスの男子である。
その場にいた全員が注目する中、姫子は「気持ちは嬉しいけれどあたしは身も心も天野くんのものなので」と、真顔でとんでもない発言をかました。
赤面した優が教室から飛び出してきて「すみません本当すみませんちょっと姫子ちゃんこっち来ようか」と姫子の手を引いて退場するという一幕があってからというもの、石田はもちろん、姫子に言い寄る者はいなくなった。
もはやあの二人は公認カップルと化している。
姫子が昼食時に「はい、あーん」と典型的なバカップル発言をしようとも優が恥ずかしがろうとも、生温かい視線が注がれるだけだ。
「そう。石田くんには気の毒だけれど、足を手に入れた現代の人魚姫の恋が叶いそうで良かったわ。私、人魚姫って悲しいお話だからあんまり好きじゃないのよね。でも、姫子ちゃんの物語はハッピーエンドで締めくくれそうで嬉しい」
幽子は本当に嬉しそうに笑って、手を合わせた。
「そうそう、美緒ちゃん。図書室のね、西洋哲学の棚の、一番上の右端から三番目の赤い本を開いてみて。この前の日曜日に姫子ちゃんが天野くんとデートしたって聞いたから、お祝いの絵を描いてみたの。姫子ちゃんに渡してちょうだい。喜んでくれるといいんだけど……」
「はい。それは構いませんけれど……絵を描いたって、どうやって?」
目をぱちくりさせると、幽子は悪戯が見つかった子どものように、小さく肩をすぼめて笑った。
「さっき、図書室で寝てる子がいてね。寝てる間だけ身体を借りたのよ」
「……そんなこともできるんですね」
「ええ。幽霊だもの」
(そっか。幽霊は憑依できるんだ。ってことは、銀太くんも誰かに乗り移ったりできる……?)
もし銀太が朝陽に乗り移って、美緒と抱きしめ合えたら、朝陽の心残りも少しは晴れるだろうか。
帰ったら銀太に聞いてみようと考えていると、隣のテーブルにいた男子生徒たちがこちらを見ていた。
さっきからこいつは何を一人で喋っているのだろう。そんな顔をしている。