生徒ホールの前はガラス張りで、広く陽光を取り入れる構造になっているのだが、どんな光に照らされようと、幽子の足元に影ができることはない。

 この三週間で、彼女とは何度か会話を交わし、友好も深まったように思う。
 朝陽や姫子は己の正体を明かしたし、幽子はごく自然な態度でそれを受け入れた。

 特に銀太はよく彼女に懐いている。

 というのも、美緒たちが授業を受けている間、退屈を持て余した銀太は彼女の元へ行っているからだ。

 銀太経由で彼女のことは色々教わった。

 読書が好きなこと、絵を描くのが得意なこと、覚えている限りでは十年ほど前からこの学校で暮らしていること。

 珈琲よりも紅茶の匂いが好き。本当は匂いだけじゃなくて味そのものを楽しみたいのだが幽霊なので飲めなくて残念がっている。
 そういった、ちょっとした情報も全て銀太は報告してくれた。

「そうです。これ、朝陽くんなんですよ。興味があるなら見ます?」
 隣の椅子を引くと、幽子は「ええ、是非。ありがとう」と言って、椅子に座った。

 携帯のロックを解除し、画像フォルダを開いて、幽子に見せながらスライドしていく。

 画像フォルダには朝陽単独の写真はもちろんのこと、朝陽を抱いたもの、姫子と美緒でピースしたもの、姫子と美緒で朝陽を抱いたもの、実に様々な写真が保存されている。

 どれも美緒の宝物だ。バックアップも万全。

「姫子ちゃんは鯉なのよね? 狐バージョンの朝陽くんは見せてもらったけれど、鯉バージョンの姫子ちゃんはいないの?」

「わたしも頼んでみたんですけれど。『あたしは人になる、鯉であることは捨てるんだから興味を持つな』と怒られました」
 姫子の恋は順調だ。
 この三週間、昼休みは優と一緒に食事を取り、放課後は一緒に帰り、先週末にはついに初デートをしたということで、美緒のアパートではささやかな祝賀会が開かれた。

 朝陽は「なんで付き合わされなきゃいけないんだ」とぶつぶつ文句を言っていたが、それでもきっちりお祝い用の豪華メニューを作ってくれた。