特別校舎の二階と三階には生徒ホールがある。
丸いテーブルと、カラフルで座り心地の良い椅子が用意されたその空間に人が絶えることはあまりない。
今日の放課後も、購買部で買った飲み物片手に友達と談笑する生徒、一人あるいは複数で学校の課題をこなす生徒、携帯を弄る生徒、隅っこで寝ている生徒、等々により、三階図書室前の生徒ホールはほぼすべての席が埋まっていた。
美緒はそのうちの『携帯を弄る生徒』に該当した。
ついさきほどまで数学と古典のプリント相手に格闘していたのだが、終わったのでポケットに忍ばせていた携帯を手に取った。
表示されるホーム画面の写真は淡い栗色の毛並みの狐だ。
人間のように豊かな表情筋など持たない狐なのに、リビングのカーペットの上で行儀よくお座りしてカメラを見上げるその顔が、ものの見事な仏頂面に見えるのは気のせいだろうか。
三週間前の撮影会のことを思い出して、つい口元が綻ぶ。
あれは本当に楽しかった。思う存分、心ゆくまで朝陽を撫でることができたし、写真だって撮らせてもらった。
「あら、可愛い狐ねぇ。これが朝陽くんかしら?」
突然手元を覗き込まれて、美緒はびくっと肩を震わせた。
幽子が隣に立ち、上体を傾けて美緒の携帯を見ている。
幽子はいつも気まぐれな風のように現れ、満足したら去っていく。
「幽子さん。こんにちは」
不意打ちに跳ねる心臓を鎮めながら、小声で挨拶する。
「こんにちは」
幽子は背後で手を組み、微笑を返してきた。
丸いテーブルと、カラフルで座り心地の良い椅子が用意されたその空間に人が絶えることはあまりない。
今日の放課後も、購買部で買った飲み物片手に友達と談笑する生徒、一人あるいは複数で学校の課題をこなす生徒、携帯を弄る生徒、隅っこで寝ている生徒、等々により、三階図書室前の生徒ホールはほぼすべての席が埋まっていた。
美緒はそのうちの『携帯を弄る生徒』に該当した。
ついさきほどまで数学と古典のプリント相手に格闘していたのだが、終わったのでポケットに忍ばせていた携帯を手に取った。
表示されるホーム画面の写真は淡い栗色の毛並みの狐だ。
人間のように豊かな表情筋など持たない狐なのに、リビングのカーペットの上で行儀よくお座りしてカメラを見上げるその顔が、ものの見事な仏頂面に見えるのは気のせいだろうか。
三週間前の撮影会のことを思い出して、つい口元が綻ぶ。
あれは本当に楽しかった。思う存分、心ゆくまで朝陽を撫でることができたし、写真だって撮らせてもらった。
「あら、可愛い狐ねぇ。これが朝陽くんかしら?」
突然手元を覗き込まれて、美緒はびくっと肩を震わせた。
幽子が隣に立ち、上体を傾けて美緒の携帯を見ている。
幽子はいつも気まぐれな風のように現れ、満足したら去っていく。
「幽子さん。こんにちは」
不意打ちに跳ねる心臓を鎮めながら、小声で挨拶する。
「こんにちは」
幽子は背後で手を組み、微笑を返してきた。