「朝陽くんは酷いよ。死んでいたかもしれないって言われて、わたしがどんな気持ちになったと思う。籠の中で眠ったままぴくりとも動かない朝陽くんを見て、どれだけ心配したと思うの。わたしだけじゃない。銀太くんだって姫子ちゃんだって、本当に心配してたんだから」
 帰り際に優と喫茶店でデートしてきたと上機嫌だった姫子は、眠る朝陽を見た途端に顔色を変えた。

 え、何どうしたの。体温が酷く下がってるじゃない、冷たい。
 そう言うなりホッカイロを買いに走り、低温やけどしないようにタオルでくるんで朝陽の籠に差し入れていた。

 その後も傍から離れようとせず、テレビを見ても、学校の課題をこなしても、何をしても上の空で、ちらちら朝陽を気にしていた。
 心配かけてんじゃないわよ馬鹿。
 朝陽が起きるなり罵った姫子の目に涙が浮かんでいたことに、朝陽は気づいただろうか。

「姫子ちゃんのために烏丸様と闘おうとしたときもそうだよ。朝陽くんは自分を軽く扱いすぎてる。そんなに簡単に自分を犠牲にしようとしないで。朝陽くんを大切に思ってる人の気持ちも考えてよ。お願いだからもう止めて」
 どういえば朝陽に伝わるのだろう。
 美緒は衝動的に朝陽の手を掴んで握り締めた。

 触れ合うだけで気持ちが伝わればいいのに。

 知り合ってまだ一週間しか経っていないが、それでも美緒にとって朝陽は大事な存在になっている。
 朝陽がいる日常が当たり前になっているのだ。

 朝起きて、おはようと挨拶を交わし、姫子と銀太と朝陽お手製の朝食を囲む日常が。
 皆で過ごす楽しさを知ってしまった以上、もう一人には戻れない。戻りたくない。

 嫌だ。この手の温もりを失いたくない。
 朝陽の手を強く握り締めて、美緒は嗚咽した。

「……ごめん」
 朝陽が腰を浮かし、隣に移動してきた。
 一人分開いていた間のスペースを埋め、朝陽は頭を撫でてきた。
 アマネの手とは違う。美緒よりも大きい、男性の手だ。

「おれもこんな大ごとになるとは思ってなかった。そうだな、確かに、相手も霊力のコントロールができる悪いやつだったら、逆に奪われてたかも。でも、あの付喪神は必死みたいだったし、そんな危険なやつじゃないと思ったから……」
「良いあやかしのためなら衰弱してもいい、わたしたちに心配かけても構わないって言いたいの?」
 潤んだ目で睨みつけると、朝陽は手を止めた。

「……いや」
 と、目を逸らし、小さな声で否定した。

「……そうだな。ごめん。おれはただ」
 朝陽はそこで言葉をぶつ切りにした。
 美緒の頭から手を離し、何か考えるような顔をしている。

「……朝陽くん? どうしたの?」
 怒りも悲しみも消え去り、美緒は心配になって尋ねた。
 繋いだままの手を軽く引っ張る。

 やがて、朝陽が口を開いた。