「お兄ちゃん?」
 銀太がいまだ頭を垂れている猫を気遣って、返答を促す。
 どうしたんだろう、と美緒が思っていると、朝陽はおもむろに口を開いた。

「……銀太、美緒の肩に移動して」
「え? うん」
 銀太が跳躍し、美緒の肩に移動する。

 朝陽は手のひらサイズの猫を足元に下ろして、辺りを見回した。
 誰も見ていないのを確認してから、ぽんっと白い煙を噴き上げて狐に転じる。

「わあ、朝陽さんって本当に狐だったんですねえ。化けるのがお上手なんですねえ」
 猫が感心したように言ったが、美緒はその行動が理解できずに尋ねた。

「朝陽くん、どうしたのいきなり」
 まさか純粋に猫を喜ばせるために変身したわけでもないだろう。

「おれの霊力をこいつにやる」
「ええっ!?」
 朝陽以外の驚く声が唱和した。
 猫など地面から一センチ飛び上がっている。

「そ、そんなことできるんですか!?」
 猫は着地するなり、朝陽に詰め寄った。

「できる。狐は霊力のコントロールが抜群に上手いからな」
「でもお兄ちゃん! そんなことしたら衰弱しちゃうよ! 人間で言うなら生命力をあげるようなものじゃない! 危ないよ!」
 銀太が美緒の肩から飛び降り、猫と朝陽の間に割り込んで訴えた。

「……朝陽くん。危ないんだったら――」
「大丈夫。全部じゃなくて、ある程度を与えるだけだから」
 朝陽はかぶりを振って、美緒の発言を押しとどめた。

「おれが持つ霊力の、そうだな、半分くらいやれば存在感が増して気づけるようになるだろ。よっぽど鈍い人間じゃない限り」
「……でも……半分って……」
「大丈夫だって。心配いらない」
 朝陽は前足で銀太の身体を叩く真似をした。

「……。信じるよ?」
 渋々、といった様子で銀太が身を引くと、猫は再び朝陽と距離を詰めた。

「本当に良いんですか?」
「ああ。おばあさんと話してみたいんだろ?」
「はい! おばあさんとおじいさんはボクの大好きなご主人様なんです! お願いします、どうかボクにおばあさんと話すチャンスをください!!」
 猫が平伏する。