「あ、あたしがいつそんな……っ、あんた、本気なの? 烏丸さんの目を見たでしょう、あれは戦闘狂の目よ? 無事じゃ済まないわ」
「まあ、無傷とはいかないだろうな」
 あっさり認めた朝陽に、カッとしたように姫子が怒鳴った。

「じゃあなんで闘うなんて馬鹿なこと言い出したのよ!? 相談員だからって、あんたがそこまでする必要――」

「お前がどれだけ頑張ってきたか知ってるから」
 静かな声に、姫子が言葉を止めた。

「それに、友達だし」
 姫子が息を呑み、銀太が泣きそうな目で兄を見上げる。

「お兄ちゃん……」
「大丈夫だって。おれが強いの知ってるだろ?」

「知ってるけど……本当に大丈夫なの? お兄ちゃんまで死んじゃったらやだよ?」
「大丈夫大丈夫」
 朝陽は片膝をついて、銀太の頭を撫でた。
 もちろん、触れ合えないのでふりだけだ。

「なんじゃ。何をぐずぐずしておる。止めるのか?」
 階段前で振り返り、烏丸が眉を顰めている。

「いいえ」
「――待って!」
 美緒は歩き出そうとした朝陽の手を掴んだ。

「なに?」
 朝陽があやすように微笑むから。

「――――」
 美緒はもう、胸がつかえて、何も言えない。

「行ってくる。無事を祈ってて」
 朝陽の手がするりと抜けて、離れた。

 靴を履いたことで足音が変わり、その音も遠ざかる。

 姫子が俯いて、白くなるほど拳を強く握り締め、唇を噛んで身を震わせている。

 朝陽が行ってしまう。
 朝陽と烏丸が闘う。命を懸けた死闘になる。

(祈ることで朝陽くんが無事に戻って来てくれるなら、いくらだって祈るよ。でも――でも)

 祈りは通じるのか。
 本当に行かせていいのか。

 焦燥感に苛まれている間に、朝陽は烏丸の隣に立った。