異国風の楼閣は目を奪うような朱色で、ちりばめられた金銀の箔が美しかった。
 反った屋根に烏の像が置かれている。

 楼閣は一基だけではなく、八角形の頂点を描くように、等間隔に八基聳えていた。
 隣接する二基は奇数階ごとに朱色の橋で繋がり、橋を歩けば一周回れる構造になっている。なんとも風変わりな建物だ。

 美緒は門番の許可を得て、土足のまま楼閣に足を踏み入れ、最上階へと進んだ。

 八基の楼閣は全て十階建てだが、各階の天井が高く、普通の建物なら優に十一階分はありそうだ。

 美緒と朝陽は姫子の様子を窺いながら階段を上った。
 人間でもきついのに、二本足を得て一週間も経たない姫子には大変だろう。

「銀太はいいわねえ、歩かなくても朝陽が運んでくれるんだもの」
 姫子は朝陽の肩に乗る銀太を見て恨めしそうだった。

 ようやく着いた最上階の展望台では茣蓙《ござ》が敷かれ、座布団が用意されていた。
 三つ並ぶ座布団が美緒たちの席だろう。

 上座で一羽の烏天狗が胡坐をかいていて、お付きらしい若い男性の烏天狗が壁際に控えている。

 美緒たちは勧められるまま靴を脱いで上がり、座布団に座った。

「よう来たの。飛べぬ身では、ここまで来るのが大変だったじゃろう」

 上座に座る烏天狗――烏丸は大きく口を開けて、ガハハと豪快に笑った。
 背中に大きな烏の翼を持つ烏丸は白髪を無造作に伸ばし、口髭を蓄えた山伏衣装の老人だった。

 アマネに仕える篝も老人だが、雰囲気は全く違う。

 彼は身なりを整えた細身の紳士だが、烏丸はどこぞの山賊かと見紛うような風体だ。
 体格も大きく、黒い目が妙にギラギラしている。

「用件は聞いておるぞ。そこの魚が永久的に人に化けるために、鳳仙草が欲しいとな」
「はい。その通りでございます」
 姫子は座布団から下りて両手をつき、床に額をくっつけた。

「わたくしは愛する人のため、どうしても人になりたいのです。ご無理は承知でお願いに上がりました。どうか一房譲って頂けないでしょうか」
 プライドの高い姫子が額《ぬか》ずいている。

 必死な思いが伝わってきて、胸が締め上げられるように痛んだ。

「魚よ。鳳仙草の価値は知っておるのか?」
 白い顎髭を撫でつけながら烏丸が言う。

「……はい。この山で芽吹く鳳仙草は万能薬の源。十年に一度しか咲かぬ大変稀少な花ゆえ、滅多に市場に出ることはない。たとえ運良く巡り合ったとしても、買うには天狐金貨100枚でも足りぬとか……」
 深く顔を伏せたまま、姫子が答えた。

「ほお。よく調べた、と言いたいが、お前さんは金貨100枚でも足りぬものをタダで譲れと言うのか? 随分と都合の良い話じゃのう」
 姫子は身を固くして黙り込んだ。

(……やっぱり駄目か)