(ど、どうしよう。このあやかし、関わっちゃいけないやつだ!) 
 視線で助けを求める。
 でも、目が合った首の長い女性は首を半回転させて顔を背け、猫の耳と二又の尻尾を持つ親子はそそくさと屋台の陰に隠れた。

「小さな子が一人でいるってことは、迷子なんだろう? ボクと一緒においで。お母さんの元へ連れて行ってあげるよ」
 巨漢のあやかしが手を伸ばしてきて、美緒は一歩引いた。

「わ、わたし、お母さんいないんです。五歳のときに死んじゃって。お父さんは顔も知らないし。だから、おばあちゃんと来てて……」
「おや、それは悪いことを言ってしまったかな。じゃあおばあちゃんのところに連れて行ってあげるよ」
「いいです、一人で帰れますから、大丈夫です」
 両手を振り、さらにもう一歩下がる。

「あやかしの厚意を無碍にするものじゃないよ。いいからおいで」
 巨漢のあやかしが美緒の肩を掴もうとしたとき、後ろからやって来た誰かに右手を強く引かれた。

「わっ」
 たたらを踏んで後退した美緒と入れ替わり、その子は美緒の前に立った。
 あやかしから美緒を守るように通せんぼして、両手を横に広げる。

(――だれ?)

 背丈は美緒より低い。八歳の美緒と同じか、いくつか下か。
 着物は白で、帯は青。恐らくは男の子。
 男の子の頭には狐の耳が生え、警戒した猫のようにぴんと立っている。
 尻からは立派な尻尾が突き出していた。

「この子に触らないで」

 震えながら、それでも男の子はきっぱりと言った。

「……なにかと思えば、ふん。狐の子ではないか。百年も生きる大妖怪に向かって生意気な。おとなしくその子を渡せ。さもなくば、もろともに食ってしまうぞ」
 巨漢のあやかしは優しかった口調を一変させ、浴衣の前をはだけた。

 覗いた腹は裂け、ぱっくりと大きな口が開いている。
 涎が鋭い上下の歯を繋いでいるのを見て、美緒はものも言えずに震え上がった。