慌てて振り返ると、銀太も不思議そうに自分の身体を見ていた。
 身体は透けてはいない。普通の狐に見える。
 それでも、幽霊だから、触れ合うことはできないらしい。

「あっそっか死んじゃったんだっけ。いまのぼく、幽霊なんだ。でも会えて嬉しいよ美緒! また会えたね!」
 銀太は激しく尻尾を振った。感情表現が犬のようだ。

「ほんとだよ。わたしずっと、ずっと待ってたんだから。銀太くんが死んじゃったって聞いて、どれだけ悲しかったか」
 目尻に涙を貯めて、銀太の頭の上に手を置く。

「うん。ごめんね」
 銀太は美緒の手に頭を擦りつける仕草をした。
 温かい気持ちで胸が満たされていく。

 死んでしまった、もう二度と会えない。
 そう思っていたのに、銀太はもう一度目の前に現れた。

 肉体のない幽霊としてでも、また会えて言葉を交わせたことが本当に嬉しく、美緒は指先で涙を拭った。

「泣かないで、美緒」
「だって……わたし、この七年間、ずっと、毎日銀太くんのこと考えてたんだよ。今日は会いに来てくれるかなって。ずっと」
「うん。生きてるうちに会いに行けなくてごめんね」
 こほん、とアマネが咳払いした。
 明らかに注意を引くための咳払いを受けて、美緒は目元を擦り、銀太と揃ってそちらを見た。

「感動の再会に水を差したくはないんじゃがな。あれを見よ」
 アマネが小さな指で指した部屋の隅には朝陽がいた。

 淡い栗色の体毛に包まれた狐は壁を見つめ、こちらに背を向けている。

「……朝陽くん?」「……お兄ちゃん?」
 美緒と銀太の声が唱和する。

「……おれが最期を看取ったのに。あれだけ尽くしてやったのに。泣き崩れるおれのことなんて気にせず美緒のところに行ったのか……いまだって美緒に夢中で……無視してるし……」
 朝陽は耳を垂らし、背中を丸め、何やらぶつぶつ言っている。
 完全にふてくされているようだ。

「ええと……お兄ちゃん?」
 これはまずいと見たのか、銀太がゆっくりと、伺うような足取りで慎重に近づいていく。

「ねえ、機嫌直してよお兄ちゃん。ごめんってば。お兄ちゃんにはもちろん感謝してたよ? ずっと会いたかったよ?」
 すると、朝陽は首を捻って銀太を見、尻尾でぱしんと畳を一つ叩いて一言。

「ばか」

 そう言って、また部屋の隅に向き直った。

「お兄ちゃん」
 銀太が回り込んだら顔を背ける。
 逆側に回り込んでも、また逆方向に顔を背けてしまう。

「うわあああんお兄ちゃんごめんなさいいい」
 銀太が泣いても朝陽の機嫌は直らず、しばらくつーんと顔を背けたままだった。