「じゃから美緒、しばらくは朝陽の助手として働くが良い。お主を相談員と認め、紐を与えるかどうかはお主の働き次第じゃ。ちょうどお主たちに任せたい者がおる。現世からやって来た魚なんじゃが、まだ上手に人に化けられもせんのに、どうしても戻りたいと言って聞かぬ。後で紹介するから、朝陽とともに力になってやっておくれ」
「わかりました」
「朝陽もそれで良いな?」
「はい」
朝陽が頭を下げると、アマネが微笑んだ。
「物分かりの良い者は好きじゃ。人でも、あやかしでもな。どれ、褒美をやろう。美緒、鞄の中に何か持っておるであろう? 仄かにあやかしの気配がする。出しなさい」
「はい」
傍に置いていた鞄を開け、鈴を取り出すと、アマネが立ち上がり、こちらへ下りてきた。
美緒は驚いた。
アマネはこのヨガクレで一番偉い神さま。
となれば、当然その場から動かず、美緒が平伏して運ぶものだとばかり思っていたのに、アマネは頓着することなく、銀糸のような髪を引きずって、美緒の前にやって来た。
控えていた篝が素早く動いて、美緒の前に座布団を置く。
アマネはそこに座り、差し出した鈴を受け取って眺め、「ふむ」と目を細めた。
「この鈴を渡したのは銀太か? 朝陽の弟の」
「? はい」
「なるほどの。死して霊魂となりながらも、惚れた女子《おなご》の元に行き、鈴に宿ったか」
「えっ?」
納得したようなアマネの呟きに、美緒は目を剥いた。
「その鈴を見たとき、銀太の気配がしたような気がしました……けど、まさか……本当に?」
朝陽の問う声は震えてすらいた。
「ほう。弟の魂を感じ取ったか、朝陽。元より狐は愛情深い種族であるが、お主の弟に対する愛情は人一倍強かったようじゃな」
アマネは感心したように言って、赤い紐を摘み、鈴を掲げてみせた。
「銀太は霊力のない、か弱き狐だったのであろう。この鈴に宿るだけで力尽き、深く眠っておるようじゃ。お主たちが会いたいと望むなら、わらわの霊力を与えて具現化してやるが」
「本当ですか!? 是非お願いします!」
身を乗り出した朝陽を、アマネは透明な瞳で見つめた。
「断っておくが、銀太は死者じゃ。いずれ在るべき場所へ行き、お主の元を去る。お主はその心の痛みに耐えられるか? 再び別離の苦しみを味わう覚悟はあるか?」
心の奥底まで見透かすような、金色の瞳。
「……はい」
朝陽は一拍の間を置いて、真顔で頷いた。
「それならば良い。銀太。銀太。ほれ、起きよ。お主の目覚めを待つ者がおる」
人差し指と中指の二本で優しく鈴を叩いて呼びかけるアマネ。
固唾を飲んで見守っていると、鈴が淡い光を放ち始めた。
みるみるうちにその光は強くなり、輝きが最高潮に達すると、鈴から分離して一匹の白い子狐を形作った。
「……んー……あれえ? アマネ様?」
子狐は前脚で目を擦り、寝ぼけた声を上げた。
「銀太!!」
隣で白い煙が上がる。朝陽が狐に変化したのだ。
「えっ? お兄ちゃん!? それと……美緒!? 大きくなったけど、あなた、美緒だよね!!」
銀太は興奮気味に叫んで駆け寄って来た。
「うん、わたしだよ、銀太くん!!」
歓喜して両手を広げる。
銀太は飛び上がり、美緒の腕の中に飛び込んだ――が、その身体は美緒の手や身体を突き抜け、背後に行ってしまった。
「わかりました」
「朝陽もそれで良いな?」
「はい」
朝陽が頭を下げると、アマネが微笑んだ。
「物分かりの良い者は好きじゃ。人でも、あやかしでもな。どれ、褒美をやろう。美緒、鞄の中に何か持っておるであろう? 仄かにあやかしの気配がする。出しなさい」
「はい」
傍に置いていた鞄を開け、鈴を取り出すと、アマネが立ち上がり、こちらへ下りてきた。
美緒は驚いた。
アマネはこのヨガクレで一番偉い神さま。
となれば、当然その場から動かず、美緒が平伏して運ぶものだとばかり思っていたのに、アマネは頓着することなく、銀糸のような髪を引きずって、美緒の前にやって来た。
控えていた篝が素早く動いて、美緒の前に座布団を置く。
アマネはそこに座り、差し出した鈴を受け取って眺め、「ふむ」と目を細めた。
「この鈴を渡したのは銀太か? 朝陽の弟の」
「? はい」
「なるほどの。死して霊魂となりながらも、惚れた女子《おなご》の元に行き、鈴に宿ったか」
「えっ?」
納得したようなアマネの呟きに、美緒は目を剥いた。
「その鈴を見たとき、銀太の気配がしたような気がしました……けど、まさか……本当に?」
朝陽の問う声は震えてすらいた。
「ほう。弟の魂を感じ取ったか、朝陽。元より狐は愛情深い種族であるが、お主の弟に対する愛情は人一倍強かったようじゃな」
アマネは感心したように言って、赤い紐を摘み、鈴を掲げてみせた。
「銀太は霊力のない、か弱き狐だったのであろう。この鈴に宿るだけで力尽き、深く眠っておるようじゃ。お主たちが会いたいと望むなら、わらわの霊力を与えて具現化してやるが」
「本当ですか!? 是非お願いします!」
身を乗り出した朝陽を、アマネは透明な瞳で見つめた。
「断っておくが、銀太は死者じゃ。いずれ在るべき場所へ行き、お主の元を去る。お主はその心の痛みに耐えられるか? 再び別離の苦しみを味わう覚悟はあるか?」
心の奥底まで見透かすような、金色の瞳。
「……はい」
朝陽は一拍の間を置いて、真顔で頷いた。
「それならば良い。銀太。銀太。ほれ、起きよ。お主の目覚めを待つ者がおる」
人差し指と中指の二本で優しく鈴を叩いて呼びかけるアマネ。
固唾を飲んで見守っていると、鈴が淡い光を放ち始めた。
みるみるうちにその光は強くなり、輝きが最高潮に達すると、鈴から分離して一匹の白い子狐を形作った。
「……んー……あれえ? アマネ様?」
子狐は前脚で目を擦り、寝ぼけた声を上げた。
「銀太!!」
隣で白い煙が上がる。朝陽が狐に変化したのだ。
「えっ? お兄ちゃん!? それと……美緒!? 大きくなったけど、あなた、美緒だよね!!」
銀太は興奮気味に叫んで駆け寄って来た。
「うん、わたしだよ、銀太くん!!」
歓喜して両手を広げる。
銀太は飛び上がり、美緒の腕の中に飛び込んだ――が、その身体は美緒の手や身体を突き抜け、背後に行ってしまった。