篝に通されたのは庭に面した部屋だった。
 上段の間、とでもいうのだろうか。時代劇で殿様が家臣と相対する時に使われる広間に似ていた。
 天井からは紐付きの御簾が垂れさがっていたが、いまは頭上で止められているため、一段高い場所に正座する少女の姿は丸見えだった。

「ふむ。つまり、美緒も良枝と同じ道を辿りたいというわけじゃな」
 額に赤い紋様のある少女は鈴を転がすような声で言い、ふわりと笑った。

 眉の上でまっすぐに切られた銀髪。
 後ろは長く伸び、床まで届いている。
 黄金の大きな目。
 透き通るほど白い肌は染み一つなく、巫女装束を大胆にアレンジしたような着物に包まれている。

 外見年齢は十歳前後。
 彼女の頭からは狐の耳が生え、耳の下に牡丹の花飾りをつけていた。

 彼女の背後には尻尾が九つ、扇のように広がっている。
 高天原から下りてきた天狐、九尾の狐。それがアマネの正体だった。

「はい」
 美緒は金襴織りの分厚い座布団の上で正座し、頷いた。
 ただそうするだけで気力が必要だった。

 アマネは他のあやかしとは纏うオーラの質が違う。
 目にしただけで、その威光にひれ伏したくなってしまう。
 隣で朝陽も緊張しているのが見て取れた。

「人の身でありながらあやかしの力になりたいと思う、その心がけは嬉しい。しかし、わらわはまだお主の人となりを知らぬ。良枝は良く働いてくれたが、祖母が善人だからとて、孫がそうであるとは限らぬであろう?」
 優しい声で、アマネは諭すように言った。