いつの間にこんな場所に迷い込んでしまったのだろう。
 早く帰らなくては。
 でも、一体どうすれば帰れるのか。

 左手に下げた巾着袋を握り締め、下駄を履いた足で歩き回る。
 あやかしたちは山の上の神社に参詣しに行っているようだが、ついていくのは怖い。

 ふもとの赤い鳥居から神社へ続く階段沿いに赤い風車が飾り付けられている。
 規則的に配列された無数の風車が回る光景は圧巻だったが、風もないのに回っているのが異様に映り、美緒は逃げるように鳥居を後にした。

(どうしたらいいんだろう。誰か帰り道を知ってるかな……)

 心細さで泣きそうになるのを堪え、辺りを見回す。
 色とりどりの風車や独楽《コマ》を売っているあやかしは人間に見える。

 真っ白の髪に抜けるような白い肌。
 垂れ目の美しい女性で、雰囲気が優しそうだ。
 あの女性に勇気を出して聞いてみようか。
 いや、リンゴ飴を舐めて歩いている豆だぬきの親子がいいかもしれない。

 誰に声をかけるべきか悩んでいると、ふっと辺りに影が差した。

「おや。キミ、人の子だよねえ? どうしてこんなところにいるんだい」

 顔を上げれば、浴衣姿の巨漢のあやかしが立っていた。
 通りを塞いでしまうほどに大きい。
 頭のてっぺんは吊られた提灯よりも高い位置にある。
 顔面に一つだけついた目玉がぎょろりと動いて美緒を見下ろし、全身の産毛が逆立った。
 なんだかこのあやかし、とても怖い。

 ――いいかい、怖いと感じたら、そのあやかしには近づいてはいけないよ。それは本能の警告だからね――祖母から言われた言葉が蘇る。

 友好的で優しいものもいれば、命を脅かすほど危険なものもいるんだと、あやかしと関わり合って生きてきた祖母は懇々と語った。