「もふもふ! ふわふわ! 気持ち良いぃぃ!! 一度でいいから思う存分狐を抱きしめてみたいって思ってたの! 夢が叶ったぁぁ!」
「いやあの止め」
「ああああこれは理性が蕩ける! 蕩けます! 幸せ! ひゃあああ朝陽くんふわふわ! もこもこ! ふわふわあああ」
 背中に顔を埋めて頬ずりしていると、何の前触れもなく上がった白い煙が頬を撫で、抱きしめていた感触が変わった。

 気づけば人型の朝陽の胸に頬を埋めていた。
 身体は完全に密着し、まるで恋人に熱い抱擁をしているような状態。

「…………っ!!?」
 現状把握するなり、吹き飛んでいた理性が一瞬で戻った。

 熱湯に触れたかのように手を引っ込め、手で床を掻いて大きく後退する。
 いま何をしていたのかを自覚し、心臓は跳ね回り、頬の温度は急上昇。

「……あのな。だから。おれもな。照れるから。止めてください」
「すみませんでした……」
 俯きがちに、憮然とした表情で言う朝陽の頬が赤いことに気づいて、美緒は小さくなった。

「……ええと」
 仕切り直すように、朝陽が咳払いした。

「撫で回されるのは勘弁してほしいけど。他にできることから恩を返すよ。これからは家事の一切をおれが引き受ける」
「えっ」
 美緒の戸惑う理由を勘違いしたらしく、朝陽は頷いてみせた。

「心配しなくても大丈夫だ。この一年、おれは人としての修行を積んできた。洗濯機だって回せるし、電球の変え方も覚えたぞ。家計簿の付け方も学んだんだ。任せてくれ。ああ、もちろん、料理も作れる。長年銀太のために腕を磨いてきたからな。味は保証する」

「ううん、そういうことじゃなくて。わたしは別に、そんなつもりで朝陽くんを家に招いたわけじゃ」
「いや」
 朝陽は頭を振った。