「しかし、万能ではないが、それに近いことはできる。じゃから、わらわは本来、何があっても介入すべきではないのだ。ヨガクレにおいてわらわの力はあまりに強すぎる。出しゃばると独裁者になりかねん。それはわらわの本意ではない」
アマネはゆるゆるとかぶりを振り、美緒の目をその目で射た。
「お主もあやかし相談員となったのだから、問題があれば自分で解決しなさい。本当に困ったときだけわらわに頼るように」
「はい」
美緒は左手首の紐に手をかけ、頷き、微笑んだ。
(やっぱりアマネ様は優しい神さまだ)
介入すべきではないと言いつつも、最後には頼っていいと言ってくれるのだから。
「さあ、手を振っておやり」
「はい」
アマネに促されるまま、美緒は櫓の端に行き、群衆に向かって大きく手を振った。
「よろしくお願いしまーす!!」
ただ手を振るのも芸がないと思って叫ぶ。
すると、待ち構えていたように花火が上がり、花吹雪が舞った。恐らくはアマネの仕込みだろう。
「おうよー!」
空の上で烏丸が叫び、黒田が笑顔で手を振り、椿が他の一反木綿と手を取り合ってくるくる踊る。
地上では綿ウサギがぴょんぴょん跳ね、他のあやかしたちは手を振り返したり、拍手したり、口笛を吹いたり、轟音を起こした。
轟音は一部のあやかしが地面を踏み鳴らしたり笑顔で隣のあやかしを殴ったり(!)、はたまた派手に火を噴いたり、大量の水で空に何本ものアーチを作ったりと、様々な手段で興奮を表現した結果だ。
美緒はあやかしたちの激しい感情表現に唖然とし、それから地上で手を振る朝陽と姫子を見て、満面の笑みを浮かべた。
一時間後、美緒は朝陽とアマネの神社に向かっていた。
姫子はいない。デートの邪魔をするほど野暮じゃないわよと言って一人で先に行ってしまった。
銀太と再会した夏祭りの夜のように、神社前の通りには屋台が立ち並び、あやかしたちが楽しそうに談笑し、気ままに飲み食いしている。
朝陽と美緒の間に会話はなかった。
お互い、近しい者との別離をまだ引きずっていた。
「そういえば美緒」
しんみりした空気を変えるように、朝陽が口を開いた。
「今週の土曜日、百地さんが払ってくれた慰謝料で雀のお宿を予約しておいたんだけど、行く?」
「えっ、行く行く絶対行く!!」
朝陽が気を遣ってくれたのがわかるから、美緒は大いにはしゃいでみせた。実際に雀のお宿は楽しみである。
朝陽が笑い、手を伸ばしてきた。
その手を握ろうとしたとき、羽織っていた上着の裾を引かれ、美緒は動きを止めて下を見た。
子どもが二人がいた。
双子らしく、髪の長さと着物の色以外はそっくりな男女の鬼の子だ。
頭の脇からちょこんと生えた角が可愛らしい。
「あの。お姉ちゃん、あやかし相談員なんでしょう? ちょっと相談したいことがあるんだけど」
美緒は朝陽と顔を見合わせた。
記念すべき、あやかし相談員になって初めてのお客様に向かい、微笑みながら屈む。
(空の彼方で見ていて、銀太くん、お母さん。わたしはきっと立派なあやかし相談員になってみせる)
もしもいつかまた巡り逢えたなら、誇れる自分であるように。
「はい。できる限り力になります。――あなたの相談事はなんですか?」
《END.》
アマネはゆるゆるとかぶりを振り、美緒の目をその目で射た。
「お主もあやかし相談員となったのだから、問題があれば自分で解決しなさい。本当に困ったときだけわらわに頼るように」
「はい」
美緒は左手首の紐に手をかけ、頷き、微笑んだ。
(やっぱりアマネ様は優しい神さまだ)
介入すべきではないと言いつつも、最後には頼っていいと言ってくれるのだから。
「さあ、手を振っておやり」
「はい」
アマネに促されるまま、美緒は櫓の端に行き、群衆に向かって大きく手を振った。
「よろしくお願いしまーす!!」
ただ手を振るのも芸がないと思って叫ぶ。
すると、待ち構えていたように花火が上がり、花吹雪が舞った。恐らくはアマネの仕込みだろう。
「おうよー!」
空の上で烏丸が叫び、黒田が笑顔で手を振り、椿が他の一反木綿と手を取り合ってくるくる踊る。
地上では綿ウサギがぴょんぴょん跳ね、他のあやかしたちは手を振り返したり、拍手したり、口笛を吹いたり、轟音を起こした。
轟音は一部のあやかしが地面を踏み鳴らしたり笑顔で隣のあやかしを殴ったり(!)、はたまた派手に火を噴いたり、大量の水で空に何本ものアーチを作ったりと、様々な手段で興奮を表現した結果だ。
美緒はあやかしたちの激しい感情表現に唖然とし、それから地上で手を振る朝陽と姫子を見て、満面の笑みを浮かべた。
一時間後、美緒は朝陽とアマネの神社に向かっていた。
姫子はいない。デートの邪魔をするほど野暮じゃないわよと言って一人で先に行ってしまった。
銀太と再会した夏祭りの夜のように、神社前の通りには屋台が立ち並び、あやかしたちが楽しそうに談笑し、気ままに飲み食いしている。
朝陽と美緒の間に会話はなかった。
お互い、近しい者との別離をまだ引きずっていた。
「そういえば美緒」
しんみりした空気を変えるように、朝陽が口を開いた。
「今週の土曜日、百地さんが払ってくれた慰謝料で雀のお宿を予約しておいたんだけど、行く?」
「えっ、行く行く絶対行く!!」
朝陽が気を遣ってくれたのがわかるから、美緒は大いにはしゃいでみせた。実際に雀のお宿は楽しみである。
朝陽が笑い、手を伸ばしてきた。
その手を握ろうとしたとき、羽織っていた上着の裾を引かれ、美緒は動きを止めて下を見た。
子どもが二人がいた。
双子らしく、髪の長さと着物の色以外はそっくりな男女の鬼の子だ。
頭の脇からちょこんと生えた角が可愛らしい。
「あの。お姉ちゃん、あやかし相談員なんでしょう? ちょっと相談したいことがあるんだけど」
美緒は朝陽と顔を見合わせた。
記念すべき、あやかし相談員になって初めてのお客様に向かい、微笑みながら屈む。
(空の彼方で見ていて、銀太くん、お母さん。わたしはきっと立派なあやかし相談員になってみせる)
もしもいつかまた巡り逢えたなら、誇れる自分であるように。
「はい。できる限り力になります。――あなたの相談事はなんですか?」
《END.》