「すまない。この恩は必ず返す」
太陽が地平線に沈んだ夜。
花柄のカーペットの上に正座し、朝陽は深々と頭を下げた。
あの後、美緒たちはショッピングモールに行き、朝陽の生活用品を一式揃えた。
リビングの壁際には朝陽の服が詰まった収納ケースが鎮座し、近くには籠も置いてある。
赤ちゃんが二人くらい入りそうな大きめの籠は、朝陽のベッドだ。
寝るときは狐の姿に戻り、あの中に入るのだという。
籠の底には柔らかい布を敷き詰めたし、毛布も用意したので寝心地は悪くないはず。
もちろん、リビングに増えた諸々の出資者は美緒だ。
結構な額が飛んで行ったので、しばらくは倹約を心がけていかなければならないだろうが、後悔はない。
朝陽の力になろう、そう決めたのは自分なのだから。
「ううん、日本にはね、困ったときはお互い様、っていう言葉があるんだよ。困ったときは遠慮せず、誰かに頼っていいの。そもそも一緒に暮らそうって誘ったのはわたしだよ? わたしが好きでやってることなんだから。気にしないで、顔を上げて、ね? 朝陽くん」
美緒は敬語を止め、呼び方も変えた。
いまは親しみを込めて『朝陽くん』と呼んでいるが、学校では『狐坂くん』と他人行儀に苗字で呼ぶ予定だ。
見目美しい朝陽と親しい素振りをすれば、まだ見ぬクラスメイトたちからどういう関係だといじられるのは目に見えている。
「……しかし、それではあまりにも……」
朝陽はカーペットの一点を見つめたまま、顔を上げない。
「もし申し訳ないとか、ありがたいとか思ってくれてるなら、一つ是非頼みたいことがあるんだけどな?」
「なんだ?」
やっと真正面から美緒の顔を見た朝陽に、微笑む。
「狐になってもらえない? 狐の朝陽くん、見てみたい」
銀太に会ってからというもの、美緒は大の狐好きとなり、狐に関するグッズも収集している。
七年ぶりに、本物の狐をこの目で見たい。
「お安い御用だ」
ぽんっと白い煙が上がる。
煙が消えた後、ちょんとお座りしていたのは一匹の狐だった。
なんと美しい毛並みだろう。
身体を覆う毛の一本一本が極上の絹糸のように柔らかそうだ。
こちらを見上げる金色の瞳はくりっと大きく、可憐そのもの。
(あああああ可愛い……!!)
美緒の胸がきゅんと音を立てた。
「これでいいのか?」
狐が言いながら、ふさふさの尻尾でぺしっと床を叩くものだから、もう辛抱堪らない。
その瞬間、かろうじて保たれていた美緒の理性は木っ端微塵に粉砕された。
「あああああああ可愛いなにこの可愛い生き物ぉぉ!!」
悲鳴じみた奇声をあげ、跪いて狐を抱き上げる。
「ちょ、ちょっと」
抵抗する朝陽を逃がすまいとがっちりホールドし、撫で、摩る。
狐の身体からはなんとも形容しがたい香りがした。
太陽を浴びて豊かに実った稲穂のような。瑞々しい草花のような。
その香りすらも愛おしく、癖になりそうだ。
太陽が地平線に沈んだ夜。
花柄のカーペットの上に正座し、朝陽は深々と頭を下げた。
あの後、美緒たちはショッピングモールに行き、朝陽の生活用品を一式揃えた。
リビングの壁際には朝陽の服が詰まった収納ケースが鎮座し、近くには籠も置いてある。
赤ちゃんが二人くらい入りそうな大きめの籠は、朝陽のベッドだ。
寝るときは狐の姿に戻り、あの中に入るのだという。
籠の底には柔らかい布を敷き詰めたし、毛布も用意したので寝心地は悪くないはず。
もちろん、リビングに増えた諸々の出資者は美緒だ。
結構な額が飛んで行ったので、しばらくは倹約を心がけていかなければならないだろうが、後悔はない。
朝陽の力になろう、そう決めたのは自分なのだから。
「ううん、日本にはね、困ったときはお互い様、っていう言葉があるんだよ。困ったときは遠慮せず、誰かに頼っていいの。そもそも一緒に暮らそうって誘ったのはわたしだよ? わたしが好きでやってることなんだから。気にしないで、顔を上げて、ね? 朝陽くん」
美緒は敬語を止め、呼び方も変えた。
いまは親しみを込めて『朝陽くん』と呼んでいるが、学校では『狐坂くん』と他人行儀に苗字で呼ぶ予定だ。
見目美しい朝陽と親しい素振りをすれば、まだ見ぬクラスメイトたちからどういう関係だといじられるのは目に見えている。
「……しかし、それではあまりにも……」
朝陽はカーペットの一点を見つめたまま、顔を上げない。
「もし申し訳ないとか、ありがたいとか思ってくれてるなら、一つ是非頼みたいことがあるんだけどな?」
「なんだ?」
やっと真正面から美緒の顔を見た朝陽に、微笑む。
「狐になってもらえない? 狐の朝陽くん、見てみたい」
銀太に会ってからというもの、美緒は大の狐好きとなり、狐に関するグッズも収集している。
七年ぶりに、本物の狐をこの目で見たい。
「お安い御用だ」
ぽんっと白い煙が上がる。
煙が消えた後、ちょんとお座りしていたのは一匹の狐だった。
なんと美しい毛並みだろう。
身体を覆う毛の一本一本が極上の絹糸のように柔らかそうだ。
こちらを見上げる金色の瞳はくりっと大きく、可憐そのもの。
(あああああ可愛い……!!)
美緒の胸がきゅんと音を立てた。
「これでいいのか?」
狐が言いながら、ふさふさの尻尾でぺしっと床を叩くものだから、もう辛抱堪らない。
その瞬間、かろうじて保たれていた美緒の理性は木っ端微塵に粉砕された。
「あああああああ可愛いなにこの可愛い生き物ぉぉ!!」
悲鳴じみた奇声をあげ、跪いて狐を抱き上げる。
「ちょ、ちょっと」
抵抗する朝陽を逃がすまいとがっちりホールドし、撫で、摩る。
狐の身体からはなんとも形容しがたい香りがした。
太陽を浴びて豊かに実った稲穂のような。瑞々しい草花のような。
その香りすらも愛おしく、癖になりそうだ。