曲が転調すると、あやかしたちは一様に両手を組み、頭を垂れた。
 美緒もあやかしたちに倣い、視線だけ上げてその光景を見た。

 あやかしたちの祈りを受けたアマネが強く右手を振る。

 たちまち、真っ黒だった空が割れ、割れ目から星が見えた。
 続いてアマネは左手を振った。さらに空が割れる。

 アマネが頭上で扇を交差させ、一気に振り下ろすと、頭上を覆う瘴気が全て吹き飛び、満天の星が輝いた。

 あやかしたちが歓声をあげ、異口同音にアマネを讃える。アマネ様、アマネ様、アマネ様――

 連呼の中、アマネは最後の舞を舞い始めた。

 同時に銀太や母や、最前列にいた者たちの輪郭が金色の光に包まれる。

(ああ……いよいよなんだ)
 美緒は組んでいた両手を下ろし、泣き出しそうになりながら二人を見た。

 美緒と朝陽は手を伸ばせば彼らに触れられるほどの近くにいた。
 最前列にいる者の縁者は優先的に前にいられるのだ。

 銀太と母も振り返り、こちらを見た。二人とも笑っていた。
 銀太は狐なので表情はわからないが、それでも笑っていると確信できる。

「朝陽くん」
「はい」
 母に呼びかけられ、朝陽が真顔で返事をする。

「美緒を幸せにしてね。間違っても子どもができて浮気するようなクズ男にはならないでね。美緒を泣かすような真似はしないでちょうだい」
「大丈夫です。必ず幸せにします」

「うん、ありがとう。信じるわ。娘のことよろしくね。美緒」
 ちょいちょい、と手招きされ、涙を堪えて歩み寄ると、耳打ちされた。

「同棲は許すけど同衾はまだ早いからね」
「最後の台詞がそれ!?」
 色々と台無しである。涙が引っ込んでしまった。