夜七時過ぎ。
 美緒は朝陽や姫子とともに、ヨガクレの中央広場にひしめくあやかしたちに混ざって櫓を見上げていた。

 空は瘴気に覆われて星一つ見えず、墨で塗り潰したように真っ黒だ。

 だからこそ、櫓を中心として放射状に吊り下げられた無数の提灯は明るく眩しく、非現実的なまでに美しく目に映る。

 提灯の中の火の玉は動かない。
 恐らくは全員が長方形の櫓の上で舞うアマネに見惚れているのだろう。

 中央広場に流れる音楽はゆったりとした曲だ。
 使用されている主な楽器は琴に三味線、和太鼓、笛。

 その旋律はどこか切なく、聞く者の心を揺さぶった。

 揃いの衣装を着た楽団員たちは櫓の端に並んでいる。

 彼らの奏でる音楽に合わせ、華やかな金色の冠を被り、白と赤の衣装を纏ったアマネは色とりどりの長い房のついた扇を揺らめかせて踊る。

 流れるような扇の動きは優雅に泳ぐ魚のようにも見えたし、風に揺れるしなやかな柳の枝にも見えた。

 美緒も茨の屋敷の庭で扇を手に踊ったが、アマネの舞に比べれば児戯だ。
 アマネの舞は動作の一つ一つが洗練されていて、一瞬を切り取っただけでも絵になる。

 瞬きも忘れ、永遠に見続けていたくなるほど見事な舞だが、美緒はアマネよりも櫓のすぐ傍、最前列にいる母と銀太のことを気にしていた。

 鳥や烏天狗といった翼のあるあやかしたちが空を埋め、翼のないあやかしたちが十重二十重と櫓を囲む中、その最前列に陣取ることを許されるのは、アマネの舞で幽世に行くことを望む者だけだ。

 母は銀太とともに行くことを選択した。

 銀太くんは私にとても懐いてくれているし、独りで行くのは寂しいでしょう。私もいつかは行かなくてはいかないのだから――そう言って母は笑った。