「そんな……」
 口を開けたきり、続く言葉が見つからない。

 銀太は別離を受け入れている。
 だからこんなに穏やかな目で美緒を見上げている。

 開いたままの唇が震えた。

 嫌だと駄々をこねられたらどんなにいいだろう。
 銀太の感情を無視して、子どものように泣いて喚いて引き留められたら、どんなにか。

 ――でも。

 それはただ銀太を困らせるだけだ。

 だから――だったら、美緒が銀太のためにいまできることなんて、言える言葉なんて、ひとつしかない。

「……わかった」

 美緒は手を握り、無理やり唇の両端を持ち上げた。
 鼻の奥が痛み、涙が零れそうになるのを我慢して言う。

「それが銀太くんの意思なら……受け入れるよ。もう、いますぐ消えちゃうの?」

「ううん。アマネ様に送ってもらう。アマネ様の舞はね、ヨガクレに溜まった瘴気を吹き飛ばすのと同時に、葬送の舞でもあるの。周囲に害をもたらすような、たちの悪い悪霊は問答無用で飛ばされてしまうけど、善良な幽霊は、自ら望めばという条件付きで幽世へ送ってくださるの。自分の意思で旅立つこともできるけど、どうせなら綺麗な舞で送ってもらいたいでしょう? だから大体みんなアマネ様に送っていただくんだよ」

「……そんな話聞いてない……」
 俯き、呟く。