五月二十七日の朝。

 美緒は枕元に立つ母に起こされて目を覚ました。
 顔を洗ってリビングに行けば朝食が準備されている。

 これは朝陽ではなく、美緒が寝ている間に身体に乗り移った母が作っていた。母が娘とその友人のために腕を振るいたい、朝食くらいは自分に任せてくれと言った結果だった。

 母お手製の朝食を食べながら、中間テストは総合点なら朝陽も美緒も同じくらいだったが得意科目が正反対だとか、姫子は赤点回避ギリギリで初めてのテストでこれでは危ないぞとか、そんな他愛ないことを話し合う。

 やがて登校時間となり、美緒たちは銀太を抱いた母を残してアパートを出た。

 幽霊とはいえ高校生にもなって親付きで登校するなんてナシでしょ、というのが母の弁で、幽子がいなければ授業中に時間を潰せなくて暇だからというのが銀太の弁だ。銀太は母が幽子ではなくなっても、よく懐いていた。

 朝陽と一緒に通学路を歩く。

 姫子はいない。人になった彼女は自分のアパートで過ごすようになり、登下校も別になっていた。
 姫子の布団が撤去された私室は広くなったものの、少々寂しい。

 見上げた空は快晴、冬服だと少し暑く感じる。今日も最高気温が三十度を越えると天気予報が言っていた。

 朝陽と話しながら歩いていると、古い小さな木造住宅の前に差し掛かった。
 招き猫のあやかしと老婆が棲む家だ。

 話を中断して見れば、今朝も窓際に招き猫がいた。

 伸びあがり、嬉しそうに小さな手を振っている。

 朝陽が霊力を与えた翌日から、招き猫は登校時間になると窓際に待機し、美緒たちの姿を見つけると元気よく手を振ってくれる。

 その隣には招き猫そっくりな子猫がいて、退屈そうにあくびしていた。

 一週間ほど前から老婆は自分に似た猫を飼い始めた、世話は大変そうだけど楽しそうだと招き猫が教えてくれた。

 朝陽も美緒も笑って手を振り返した。

 これもまたいつものことで――夜にヨガクレで一大イベントがあること以外は、今日も普段通りの一日だと思っていた。