果たして、庭の一角にアマネが立っていた。
アマネは凛と立つ百合のように、威風堂々と。
篝はアマネの斜め後ろで腹の上で両手を重ね、今日も執事らしく控えている。衣服には一片の皺もない。
(な、なんで……いつの間に?)
さきほどの風はアマネが転移してきたから起きたのだろうか。
「アマネ様!」
半数のあやかしがひれ伏し、半数のあやかしが呆然と見守る中、アマネは烏丸を見た。
「烏丸よ」
神の出現に静まり返った庭で、アマネの声が耳朶を打つ。
「はっ」
烏丸が頭を下げた。
「大切な一族である黒田をかどわかされたお主の怒りは最もじゃ。しかしここはわらわに沙汰を任せてはくれぬだろうか」
「……断れるわけがございますまい。お任せしましょう」
「では、直接の被害者である美緒、朝陽、黒田。どうじゃ?」
「も、もちろんです!」
「はい」
「当然でございます」
揃って頭を下げると、アマネは頷いた。
「ありがとう。では」
アマネは冷然と鳥籠の中の茨を見据えた。
「お主の度重なる問題行動は知っておった。あやかしたちの嘆きには胸を痛めておったが、わらわは神じゃ。出しゃばれば事態を余計に混乱させるだけと思い、どうにか他のあやかしたちとの関わり合いの中で愛を知り、更生してほしいと願っておったのだ。しかしお主はまた似たようなことを繰り返した。お主の身勝手で他のあやかしを傷つけ、苦しめ、不幸にさせた」
「お前がそれを言うか! そもそも全てはお前のせいではないか!」
茨が怒鳴った。
「良枝への復讐をお前が止めなければこんなことにはならずに済んだのだ!」
「痴れ者めが」
アマネが侮蔑に目を細めた。
大気がアマネの怒りに共鳴して震え、背中に氷でも差し込まれたような気分になった。誰もが凍り付いたように動けずにいる。
「良枝と正々堂々勝負し、負けたのはお主であろう。潔く負けを認めれば良いものを、負けた腹いせに闇討ちなどしようとするからわらわが止めたのであろうが。もしあのときわらわが止めていなければ良枝は死に、ここにいる美緒も存在していなかったやもしれぬ。お主はくだらぬ私怨で未来の尊い可能性を潰しておったかもしれんのじゃぞ。見よ」
アマネはぐるりと手を回し、この場にいるあやかしたちを指し示した。
「今宵、美緒のために多くのあやかしが集まった。人でありながら美緒はこれほどあやかしたちに好かれておるのに、お主はどうじゃ。珍妙な香で支配し、恐怖で他のあやかしを縛り付け、それで満足か。ここに至ってなお、己が愚かさに気づかぬか」
「知ったことか。私の意に沿わぬ有象無象などどうでも良いわ」
ふっと、音がした。アマネが肩を落として吐いた息の音。
「……わかった。もういい。今回のことでお主にはほとほと愛想が尽きた」
「では、どうすると?」
神を敬う気持ちなど欠片もない、どこまでも傲岸不遜な茨の態度に、アマネは無感動に告げた。
「ヨガクレからの永久追放を命じる。和を乱すあやかしなどここには要らぬ。次にこの地を踏むときは死ぬときと心得よ」
アマネがぱちんと指を鳴らすと、手品のように鳥籠の中の茨が消え、鬼たちの表情にも変化が訪れた。
皆、悪い夢でも見ていたかのように呆けた顔をしている。
香の効果が消えたのだ。
まさに、神の御業、としか言いようがない。
諸悪の根源は何処へ消え去り――そして事件は終わりを告げた。
アマネは凛と立つ百合のように、威風堂々と。
篝はアマネの斜め後ろで腹の上で両手を重ね、今日も執事らしく控えている。衣服には一片の皺もない。
(な、なんで……いつの間に?)
さきほどの風はアマネが転移してきたから起きたのだろうか。
「アマネ様!」
半数のあやかしがひれ伏し、半数のあやかしが呆然と見守る中、アマネは烏丸を見た。
「烏丸よ」
神の出現に静まり返った庭で、アマネの声が耳朶を打つ。
「はっ」
烏丸が頭を下げた。
「大切な一族である黒田をかどわかされたお主の怒りは最もじゃ。しかしここはわらわに沙汰を任せてはくれぬだろうか」
「……断れるわけがございますまい。お任せしましょう」
「では、直接の被害者である美緒、朝陽、黒田。どうじゃ?」
「も、もちろんです!」
「はい」
「当然でございます」
揃って頭を下げると、アマネは頷いた。
「ありがとう。では」
アマネは冷然と鳥籠の中の茨を見据えた。
「お主の度重なる問題行動は知っておった。あやかしたちの嘆きには胸を痛めておったが、わらわは神じゃ。出しゃばれば事態を余計に混乱させるだけと思い、どうにか他のあやかしたちとの関わり合いの中で愛を知り、更生してほしいと願っておったのだ。しかしお主はまた似たようなことを繰り返した。お主の身勝手で他のあやかしを傷つけ、苦しめ、不幸にさせた」
「お前がそれを言うか! そもそも全てはお前のせいではないか!」
茨が怒鳴った。
「良枝への復讐をお前が止めなければこんなことにはならずに済んだのだ!」
「痴れ者めが」
アマネが侮蔑に目を細めた。
大気がアマネの怒りに共鳴して震え、背中に氷でも差し込まれたような気分になった。誰もが凍り付いたように動けずにいる。
「良枝と正々堂々勝負し、負けたのはお主であろう。潔く負けを認めれば良いものを、負けた腹いせに闇討ちなどしようとするからわらわが止めたのであろうが。もしあのときわらわが止めていなければ良枝は死に、ここにいる美緒も存在していなかったやもしれぬ。お主はくだらぬ私怨で未来の尊い可能性を潰しておったかもしれんのじゃぞ。見よ」
アマネはぐるりと手を回し、この場にいるあやかしたちを指し示した。
「今宵、美緒のために多くのあやかしが集まった。人でありながら美緒はこれほどあやかしたちに好かれておるのに、お主はどうじゃ。珍妙な香で支配し、恐怖で他のあやかしを縛り付け、それで満足か。ここに至ってなお、己が愚かさに気づかぬか」
「知ったことか。私の意に沿わぬ有象無象などどうでも良いわ」
ふっと、音がした。アマネが肩を落として吐いた息の音。
「……わかった。もういい。今回のことでお主にはほとほと愛想が尽きた」
「では、どうすると?」
神を敬う気持ちなど欠片もない、どこまでも傲岸不遜な茨の態度に、アマネは無感動に告げた。
「ヨガクレからの永久追放を命じる。和を乱すあやかしなどここには要らぬ。次にこの地を踏むときは死ぬときと心得よ」
アマネがぱちんと指を鳴らすと、手品のように鳥籠の中の茨が消え、鬼たちの表情にも変化が訪れた。
皆、悪い夢でも見ていたかのように呆けた顔をしている。
香の効果が消えたのだ。
まさに、神の御業、としか言いようがない。
諸悪の根源は何処へ消え去り――そして事件は終わりを告げた。