(あっ!)
 美緒は渡り廊下を歩く二人を見て目を大きくした。
 黒田と鬼の女性の使用人だが、使用人に化けているのは夜霧だ。夜霧が救出に成功したらしい。

 心配していた黒田はしっかりと二本の足で歩いていた。
 背中の翼も欠損は見当たらず、どこかを怪我している様子もない。

 夜霧が黒田の肩を叩き、指さしたことで黒田がこちらを向いた。
「おう! 無事のようじゃな黒田!」
「烏丸様! 助けに来てくださったんですね!」
 翼を広げて飛んできた黒田は両手を広げ、烏丸に抱きつこうとしたが当の烏丸がそれを拒んだ。
 カウンター気味に腹に拳を叩き込まれて黒田が吹っ飛ぶ。

「酷いな」
 身体をくの字に曲げて悶絶する黒田を見て朝陽が呟いた。全く同感である。

 渡り廊下にもう一度目を向けると夜霧はいなくなっていた。
 正体がばれる前に退散したようだ。また後で金の請求に来るのだろう。

「かわゆい女子なら大歓迎じゃが何が悲しゅうて男と抱き合わねばならんのじゃ。気持ち悪いわ」
 殴った拳を解き、ひらひらと振る烏丸。

「……お、お変わりなさそうで何よりです……」
「ふん。そもそも鬼如きにかどわかされるとは何事じゃ、情けない。帰ったらビシバシしごいてやるから覚悟せいよ」

「はい……」
 苦笑いし、腹を押さえたまま、ふらふらと立ち上がる黒田。
「さあて、仕置きの時間じゃ。朝陽、それを寄越せ」
 朝陽は素直に鳥籠を渡した。
 黒田とのやり取りで拒否権などないと痛感したようだ。